第53話 これが……
「あれ?」
星を右手で受け止めた、と思ったらボートの上に戻っていた。きちんと海の上に浮いている。
なんだったんだ今のは? などとは思わない。『ドーン・エリア』に入る為のテストだったのだ。
証拠にほら、さっきまでは見えなかった島がある。
いや島って言うか沢山のガラスの塔が海中から海上、雲上へと斜めに延びていた。中には浮遊している小型のガラスの塔もあって、そこからは水が滝のように溢れ落ちているのだ。
冷たさは感じない。だっていたるところに蔦が巻きつき、カラフルな花が咲いているから。
さながら巨大なブーケのようだ。
「これが……」
『ドーン・エリア』か。
水晶の森のようにそそり立つガラスの塔はビル群だろうか。
飛び交う小型の飛行船は空飛ぶ車だろうかそれとも小型のヘリだろうか。
ホログラムのディスプレイには人が映っていてニュースや音楽、ドラマやバラエティなんかを放映中。
人が、間違いなく住んでいる。
ワールド・ダウングレードの影響はあったのか?
グリムたちはここに来ているのか?
「……みんなは」
どうなったのか? と思っていたら。
「うお」
「わお」
オレと石見の言葉が重なった。
いやあボートに突然現れたから声出すよ。向こうからしたら突然元に戻ったんだろうけど。
「お帰り石見」
「ただいま? どうなってんの? あれがテストで良いのかな?」
「『ドーン・エリア』が見えるって事はな。
どんなテストだった?」
「トロッコ問題。糸掛と市民百人を天秤にかけられた」
オレとか。
「で、どうした?」
選んだのはどちら?
「線路を爆破してトロッコを脱線させました」
「そ、そうか」
過激っすね。
「いやあトロッコに載ってたのが宝石だったからさ、私にはいらないなと思って。あんまり。うん、あんまり、ちょっとだけ」
ちょっとだけ惜しそうだ。宝石でウハハと言うタイプではない石見も女の子だから男のオレよりオシャレがしたいのだろう。いや女の子だからって考えは最近じゃ差別扱いだし宝石に目がない男もいるかもだが。
「糸掛は?」
「テスト自体が違ったよ。オレは星がいっぱい落ちて来て、逃げなかったらここに」
「星」
「多分状況判断能力と勇気が試されたんだろうな」
「そっか。
で他の人たちは――わお」
心樋とエンリが現れた。ついでフォゼ・カノ・タータル、最後にジャイル。
順番に現れて全員が目を見張っている。
全員来られたか。良かった良かった。
「これが『ドーン・エリア』か?」
頭を摩りながら、カノ。なにやらえらく疲れているがどんなテスト受けたんだろう?
「頭使う問題だった。知力の方な」
あー、苦手そう。
「で『ドーン・エリア』であってんのか?」
「それ以外だったら困る」
「確かにな」
暫しみんなボ~と『ドーン・エリア』を眺める。
しかしいつまでもこうしているのは良くない。オレたちはこれを眺めに来たのではないのだから。
「ジャイル」
「ん? あ、おお。
んじゃ、ボート進めるぜ」
エンジンが起動中なのを確認して、ジャイル。
小さな波を引き起こしながらゆっくりと進み出すボート。
どうやらいくつかの船が停まっている港と思しき場所の一つへと向かっているようで。
なんとなく唾を呑む。ゴクリ。
いよいよ『ドーン・エリア』に上陸だ。
さあ、なにが待つ?




