第51話 入ったらどうなるか知らねえからな
「ほぉ~」
案内された港にある船、白いボートを見て、カノ。
「ふふん、儂のボートだぜ。すげえだろ」
「マインたちの持ってるやつより小さなフォゼ」
「ぐぬぅ!」
抉るな抉るな、心を抉るな。
「乗りましょ。小さいけれど我慢して」
「エンリまで!」
泣きべそかくな、がんばれジャイル。
呆れ、苦笑しつつ乗り込むオレたち。
小さいとは言うが乗ってみると充分な広さがあり、なかなかに高級感もあった。
二階あるし。
トイレあるし。
眠れる部屋は――ないな。
「んじゃ出すぞ~」
若干元気をなくしたジャイルだが、ボートを運転する事になってちょっと嬉しそうだ。うきうきしている感情が表情に現れている。
停留ロープがタータルによって外され、ゆっくりと動き出すボート。
港を出て、いざ大海原へ。
本日は天気良好、波も静かだ。
だからかジャイルは。
「飛・ば・す・ぜ!」
「速い速い怖い~」
ノリにノって速度を上げる。
心樋も怖いと言いつつ楽しそうだ。なによりである。
ボートは順調に進み、大陸から、島から離れて凡そ十分後。
速度が落とされ当たり前だが海上にて停まった。
しかしここには。
「? なんもないけど?」
疑問を口にするオレ。
右を見ても左を見ても前を見ても後ろを見ても海だ。
島もないし浜もない。当然大陸もない。
あるのは深い緑の海水だけだ。
「いいや、この地点で良いはずだ。
その証拠にほれ、船の先端見てみろよ」
「?」
見ろと言われたので素直に見る。
異変はなにも……いや、少し先っちょが消えている?
「ここに壁があるのさ。ゲートと言った方が良いか?
儂には解らねえが一枚世界のレイヤーを増やして『ドーン・エリア』を空間ごとずらして隠し続けているらしいぜ。『ドーン・エリア』設計開発者の説明によるとな」
「その人は『ドーン・エリア』内にいるらしいわ。
話によると魔法じみた科学力を持つ不思議な人、よ」
「へぇ」
壁とやらに向けて手を伸ばしてみる。すると指先が消えて。
感触はない。温度が変わった様子もない。不快感もない。
「さ、船ごと行くぜ。
入ったらどうなるか知らねえからな、気合入れろよ。
ゴーだ」




