第48話 それじゃあ提案
「さて」
四輪駆動車を停めるオレ。
争っていたグリムたちがずいぶん減り、残り一体になったからだ。
その残り一体がオレに向かってきたからだ。
だが。
「無謀だな」
運転席の傍に置いていた漆黒の重兵装・魔法具である銃を手にする。オレの愛銃『ギフト・バレット』。元の名はXM25グレネード・ランチャー。銃弾にICチップが埋め込まれており、目標を感知し、目標の手前の空中で炸裂する事により最大の破壊力を発揮する銃だ。
が、ワールド・ダウングレードによって機能は停止し、魔法石を使って本来の機能を取り戻した。いや、銃の姿が大きく変わり心のありようで威力も弾速も決まるのを考えると“本来の”ではないか? 今となってはグレネード・ランチャーと呼べるかどうかも怪しい。おまけに最近はオレの意志で炸裂のタイミングと破壊する対象を(多少は)選択可能だ。
天使に貰ったオレの銃。
石見の禁忌の魔法によってムダにならずに済んだ銃。
そいつを構え、狙いを定め、トリガーを――引く。
ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!
轟くは銃声。命中。グリムの額に穴が開き、
「炸裂」
中からグリムを破壊した。
「さ、回収回収。みんなでやるよー」
しゃあねえなぁ。文句を言いながらも石見に続き車を降りるカノ。フォゼと心樋も。最後に車を路肩に寄せてエンジンを切ってオレも。
回収対象はグリムの死骸。前述通りこれが魔法石だから。
ただオレたちを囲んでいたグリムたちは危険度B。魔法石純度は低く、ゆえにBグリムの使用する魔法は弱い。
これを人間が使用するには工房で精練してもらう必要があるが、アメリカにそんな知り合いはいないので石見が魔法で作り出した亜空間に一時収納する。
「また派手に暴れた、ね」
お?
「……てっめ、終わったの見て出てきたな」
現れた女性エンリに銃口を向けちゃうカノ。撃つ気はないと思うが、ダメっすよお嬢さん。
「勘弁して。こちらも上に報告してすぐに駆けつけたのよ。全力で」
「ふん」
両手をあっさり上げて降伏する女性に、カノは銃口を向ける相手を空に変える。
「私たちの面会許可、下りた?」
「う~ん、ごめん、ね。下りなかったわ石見」
「え~」
「情報だけ吸い取っていったってか? 随分じゃねえか」
エンリはアメリカの魔法士組織に属している。
一方オレたちは日本の魔法士組織に属している。
アメリカはこれまでずっと自分たちの使う魔法と人材について秘匿して来たから簡単に上役との面会は叶わない。
だからエンリたちが先行して組織に戻り、情報と交換に“お願い”をしてもらったのだが、実らなかったか。
四つの情報、渡すんじゃなかった。
「グリムの王、ギフト・イヴェント。
グリムの女王、天使。
叛逆の人王、ノクス。
麻薬王、子供たち。
こちらの上は少なくともノクスは自分たちで倒したいみたい、ね」
ノクス。アメリカのかつての軍トップ。グリム側に着いた男。
それを日本には渡さないと。
……上役のプライド、か。
ん?
「はぁ! はえぇってエンリ」
「……ホントにね」
遅れて男性二人が到着。
肩で息をする二人はジャイルとタータルと言う名を持っている。共にアメリカの魔法士だ。
「速いのは当然。こちら、豹よ」
アメリカの魔法士は魔法石を砕き作った粉を塗料にしてタトゥーを掘っている。
豹の力を借るエンリがミモザ。
モグラの力を借るジャイルがスカイブルー。
鷹の力を借るタータルがパウダーピンクと色と形こそ違うが効果は同じ。自分と相性最高の『獣の遺伝子』を呼び起こしバトルオーラを纏う――これがアメリカの戦闘魔法だ。
「で、マインらどうする?」
「と言うかおれと姉さんもアメリカ人なのにアメリカの組織に拒絶されたんだね」
「まあ、日本の『日雷』預かりだからなマインとお前。あからさまに落ち込むなよ」
「確認。アメリカはオレたちを邪魔する気かな?」
だとしたら競い合う事になるが。
「いいや。儂らが常に同伴するなら自由だってよ」
それは。
「監視だろ」
「道案内さ」
モノは言いようだな。まあ良い。
「それじゃあ提案」
手を挙げて、オレ。
「『ドーン・エリア』に案内してもらおうか」