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第45話 朝か……

 は?

 男からの答えにますます疑問が深まってしまう。

 なんだ『ドーン・エリア』とは? 『ドーン』=『暁・夜明け』の『領域』?


「日本の深紙島(ふかみとう)――『ロスト・パラベラム』のような場所は一つではない。

 非公表領域は世界にいくつか存在するのだ。

『ドーン・エリア』とはアメリカの非公表――いやぬるいか、秘匿領域と強めに言っておこう。世界に配布しても良いか疑問の残る品・条約・法を試験運用する隠されたエリアになる。

 世界よりも五~十年程度技術が進んでいるが、その歴史の正否は問われない。あくまで対象物が使えるかどうかを試すエリアだからだ。

 だが問わぬままゆえにエリアの中では波乱が生まれる事もあり、同時にゴミのごとき人間も生まれる」


 その筆頭が! 怒気と共に続けられる言葉。

 厳しく歪む口から放たれる名は――


「ギフト・イヴェント!」


 恨みしかないのだろう。

 怒りしかないのだろう。

 名を口にするのも汚らわしいと、そんな心の声が届いた気がした。


「このノクスは奴を殺す。

 自ら死した妻の代わりに殺す。

 例えこの身を怒りに沈めようとも!

 その道程に誰を殺そうとも!」

「ふざけんな!」


 誰を殺そうとも⁉

 怒りは理解しよう。恨みも理解しよう。

 だけど!

 それは他の誰かを殺して良い理由になんてならない! 絶対にだ!


「――なんと!」


 ギフト・バレット、まずは地面に向けて一撃。と言うか動かせなかったから狙いが地面になった。

 けれどそれで良かったのだ。勢い良く舞い散る土くれを避ける為ノクスが飛翔したから。数瞬だけ殺意の『檻』が消えたから。


「う――アア!」


 だがそれでも体は重かった。疲弊しているからだ。オレはその体に鞭を打ち、ノクスを見た。


「なっ……」


 はっきりと見た彼の姿は――異形。としか表現出来ないノクスの体。

 ココアブラウンの髪とターコイズの眼はまだ人間らしい。

 全身にオーキッドパープルに輝くタトゥーがある事から『獣の遺伝子』の呼び起こしに間違いはない。が、なんだあの怪物の姿は? どの獣かまるで見当がつかない。


「――ええいかまうか!」


 銃口をノクスに向け、撃つ。


「ハッ!」


 当たると思った。だが放たれたバトルオーラに防がれてしまう。

 いや待て。なんだよあの巨大強大眩いバトルオーラは!

 煌々と輝く姿はまさに、地上の太陽ではないか。


「「「ノクス―――――――――――――――――――――――――!」」」

「――!」


 オレたちが泊まっていた部屋の近くから人が飛び出した。ジャイルたち三人の獣だ。


糸掛(いとかけ)!」


 それを追うかのように心樋(ことい)を抱えた石見(がらみ)が。


「起きろフォゼ!」


 そしてカノも。降りて来てまずフォゼを蹴飛ばした。オイオイ。


「「「!」」」


 そんなオレたちの中へと落ちて来るジャイルたち。

 怪我した様子はない。ノクスのバトルオーラを貫けずに落下したのだ。


「気いつけろよてめぇら! ノクスはグリム側についてる人間共の親玉だ!」

「っ! こいつが!」

「それも、翼竜の遺伝子を起点に全ての『獣の遺伝子』を呼び起こすのに成功した唯一の個体なのよ、ね」


 全て……その結果があの怪物の姿か。


「元はこの国の軍のトップにいた。あれは戦闘のプロだぜ」


 なんとも厄介だなそれ……。


「ジャイル、タータル、エンリ。お前たちまでこのノクスの敵になるか」

「おうよ! かつての上司に矛を向けるのは気が進まねぇけどよ!」

「こちら、元より国防の為国民の為の軍人ですので」

「……ん」


 三人、威勢良いが見るからに体調が悪そうだ。顔色も青く、震えてさえいる。ノクスに気圧されているからだ。


「……あんた、ノクス。どうしてグリムの王を殺したいあんたがグリム側にいる?」


 そしてそれをグリムはどう思っているのだろう。


「……グリムはギフト・イヴェントの居場所を把握していない。卑怯にも逃げ、隠れ潜んでいるからだ。しかしグリムの事、いずれ辿り着くだろう。

 辿り着き、残滓を取り戻す為に殺すだろう。

 そしてこのノクスは、全てのレイピストを殺害する。最後の一人まで。

 グリムと利害は一致している。

 だが……このノクスとて、部下を殺すは思うところがある。

 ……今この時は退こう。この時のみは」

「あいにく儂は! 戸惑わ――いてぇ!」


 ジャイルがエンリに頭を小突かれた。

 抗議しようとジャイルがエンリを睨みつけるがその隙にノクスは消え去ってしまう。


「……糸掛」

「ああ、石見」


 グリムの王、ギフト・イヴェント。

 グリムの女王、天使。

 叛逆の人王、ノクス。

 麻薬王、子供たち。

 グリム側の勢力が明らかになった。

『ドーン・エリア』の情報も得た。

 これを『日雷(ひがみなり)』に伝えねば――


「ん?」


 空が白んでいる。

 どうして? まだ朝日は昇っていないと言うのに!


「なんか……降りてくんぞ」


 空を見上げて、カノ。見上げているのはカノだけじゃない。全ての者だ。

 夜が割れる。

 白き光が降りてくる。

 その中に、影一つ。中にいるのは、少女? 体よりも長い透明に近い髪色、真紅の瞳の少女……いやあれは……真っ白い翼と頭上の真っ白な輪を持つ彼女は――天使!


『――――――――――――――――――――――――――――――助けて』

「……え」


 彼女には今、体はあるのだろうか? 動いたように見える口は、幼き声を発する口は手に入れた体の一部なのか?


『殺してしまう―――――――――――――――――――――――――――だから、殺して』

「――!」


 オレは咄嗟に銃を構えた。そうするのが自然だと思えたから。

 銃を介して銃弾にありったけの想いを込めて――撃つ。


ガ――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!


 天使と銃弾が衝突した。

 衝突してとてつもない威力の衝撃波を撒き散らす。


『―――――――――――――――――――――――――――――――――』


 天使の目から、涙が一滴。

 その僅かな一滴がオレの右の目尻へと落ちてきて。


「!」


 天使の密やかな想いが流れ込んでくる。

 これは……愛情、か?

 天使は、グリムの女王は――人に恋をした!

 だからこそ求める愛す人と同じ人の体。

 不安定で消えそうだから、ではなかったのだ。

 しかし、しかしその代償は、あまりにも多すぎる人の命。

 赦されてはならないはずだろうに、赦してしまいそうになる。

 それ程までに、なんと言う純真さ。


『アァ――――――――――――――――――石見―――――――――――』

「え?」


 天使が消えていく。恐らくはオレたちが『世界牢』に近づいたから持てる力の全てを使ってここに現れたのだろう。

 それが尽きていく。

 白んでいた夜空は元の星空に帰り、静けさが耳に響く。

 天使は消えてしまった。『世界牢』へと戻ったのだ。


「な、なんで、私?」

「……天使の恋の相手が、石見だからだよ」

「ふぇ⁉」


 予想もしていなかっただろう台詞をオレに言われ、動揺する。


「逢った覚えないよ⁉」

「逢わないままに世界の心を把握する、それくらい天使なら出来るって事」


 なんせ子供たちの願い(オモイ)から誕生したのがグリムだ。そこにはオレや石見の願いもあるだろう。

 天使は一つ一つの想いを大切にする。心を大切にする。その中にあった石見の心に惹かれてしまったのだ。

 けれども、グリムの女王としてグリムの怒りも受け入れている彼女にとって、現状人間は敵だ。

 人間を殺そうとする自分を殺してと、天使は言うのだ。


「……大変だぁ」


 主役の一人に躍り出て、頭を抱える石見。ちっこく丸まっていて可愛い。

 けど、だ。石見はやれない。石見はオレの想い人でもあるのだから。

 なんか、みんなが幸せになれる方法ってないもんかなぁ。


「あ」


 頭を悩ませていると心樋が一言もらした。東を見ながら。白んでいる空を持つ、東。


「ああ、朝か……」


 今度こそ朝日だ。

 地平線から頭をのぞかせた太陽は、眩い光を放っていて、まるでこの世に悩みなどないのだと、悪意など存在しないのだと語っているようで。

 ……どんな事にも朝が来ると言うのなら、この争いにも朝は来るのだろうか。

 しかし今、夜の中にいる人たちにはこの瞬間こそ手助けが必要なのだ。

 朝を待ってはいられないと言う程に。例えば『(ノクス)』と名づけられたあの男、彼のように。

 オレには石見がいたから鬼にならずにすんだが、一歩間違えばノクスの如く魔獣と化していたのだ。そう考えるとオレも危ない橋を渡って来たものだ。

 そして同時に思う石見の大切さ。

 ノクスにはいなかったありがたき救いの御手。

 オレたちの手は届くかな?

 届くと、良いな。

 ……いや、届かせよう。

 思いっきり手を伸ばして、相手の手を取ろう。


 朝日よりも早く、オレたちが光になれるように――

お疲れさまです!

この第45話で第一章は終了となります。

お付き合いいただきほんっとうにありがとうございます!!!

宜しければ評価等お願いします。

すっごくやる気に繋がりますゆえ!!! なにより嬉しいので!!!


第二章ですが、今書いている途中なので連載はちょっと先になるかな?

その時はまた読んでやってくださいな!

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