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第44話 ギフト・イヴェントを知っているか?

「大量大量! がッはッはッ!」


 一番近くのモーテルまで辿り着き、計四つの部屋を借り(日本組とアメリカ組で男女別)、オレとフォゼが泊まる部屋で。

 ベッドの上に回収された魔法石(まほうせき)を広げてご満悦なジャイル。

 アメリカ組の魔法石、ほとんどエンリが回収したくせに……。

 あとベッドに直接魔法石広げるな誰がこの後寝ると思ってんだ。


「じゃ、これはジャイルが元の袋に入れ直して運ぶと言う事で」

「ええ⁉ そりゃねぇよエンリ」

「貴方が一番回収作業をサボっていたでしょう」

「うっ……こ、細かい作業は苦手なんだ」

「だから、大雑把な仕事をあげるのよ」

「……了解」


 ふっ、ざまぁ。……いかん、オレ悪い顔になってる。


「それじゃ、夕食も摂ったし今日はもう休みましょうか。

 近くでバトルがあったのだし、みんな夜も気を抜かないように、ね」


 叩き合わされパンっと小気味よい音を出すエンリの手。それを合図にオレたちは就寝へと移行した。






 ……視線が――ある、な?

 時刻はもう四時を回っている。今日は月も出ていないから窓を開けると煌びやかな星空が良く見える。

 それは良いのだ。星空が綺麗、空気が澄んでいる証拠だ。

 が。


「フォゼ」

「はい」


 夜の空気が開け放たれた窓から入ってくる。ついでに視線も入って来ていて。

 だからオレとフォゼは銃を手に窓の横に張り付いている。


「視線は一人分ですが……これは」

「ありありと殺意がこもっているな」

「ですね」


 他の部屋はどうなっているだろう?

 狙われているのがオレたちだけなら良いのだが。


「この殺意さ、他の感情も混ざってないかな?」

「ええ、これは怒り――でしょうか。

 姉さんの得意技です」


 怒るのが得意とはいかがなものか。


「……退()く様子もないし、こっちから仕掛けるか」

「けどこのモーテルを戦場には出来ません」

「うん。窓からで申しわけないけど」


 姿を見せた途端攻撃されるかもしれないから充分に注意しつつ、オレとフォゼは窓から外へと躍り出た。三階からだったから受け身を取るのも忘れない。


「姉さんたちを起こしますか?」

「最低限の敵の情報が欲しい」

「それじゃ、軽く一戦交えてからですね」

「ん」


 では視線と殺意の出どころへゴー、と言うところで。


「「――⁉」」


 圧倒的な重力に襲われた。

 なん……だこれ⁉

 魔法? 超重力? 否。これはただの殺意。先程まで感じられていた殺意が急速に膨れ上がったのだ。そしてオレたちは脚がすくんだ。いいや、脚どころか体全体が恐れている。

 ここまでの殺意を感じた経験などない。

 向けられる覚えもないんだけど。

 いったい、これの発信者にオレたちがなにをしたと?


「い……糸掛(いとかけ)!」

「動くんだフォゼ! やられ――⁉」


 眼前が暗闇に堕ちた。壁かなにかに塞がれたのだ。恐怖と共に。

 前を見られない。見たら潰されると――殺されると思ったから。

 だけどこんな殺意、見なくても殺されそうだ。

 動けよ脚、動けよ体。

 敵をしっかり見据えて攻撃するんだ。


「そのままで()け」

「「――っ!」」


 しかし、オレの心の葛藤を消し飛ばすような重く静かな声。壁ではなかった。眼前に現れたのは人だ。


「ギフト・イヴェントを知っているか?」


 !

 心の中で目を(みは)るオレ。

 知っている。夢で()ただけだが知っている。

【メルヒェン・ヴェルト】の残滓を引き受けグリムの王となった人物。


「イエスならまばたきを一度しろ。ノーなら二度だ」


 言葉は恐怖に圧されて発せない。瞼なら落として開けそうだ。この男はそれを充分に理解している。

 だからオレは、一度まばたきをした。


「その銃はギフト・イヴェントのモノ。あっているな?」


 これは……どう応えるべきだ?

 かつてはギフト・イヴェントのモノだったが今はオレの愛銃だ。イエスともノーとも言えるが………………………………後者。

 二度、まばたき。


「……良いだろう、銃に罪はない。お前のモノとしよう。

 ギフト・イヴェントの行方は知っているか?」


 二度、まばたき。

 こっちだって探している最中だ。


「だがその銃を介してお前はギフト・イヴェントと繋がる記憶を視ているな?」


 一度、まばたき。


「銃を渡せと言ったら?」


 ノーに決まってんだろ。

 二度、まばたき。


「天使と繋がる銃を然るべき機関に預けようとは思わないか?」


 思わないな。これはオレに与えられたモノだ。他所になんてやらない。

 二度、まばたき。


「……そうか。安心しろ。奪う気はない。ギフト・イヴェントに繋がる銃だからこそ怒りがあるが、お前たちを傷つける気はない」


 ならこの怒気と殺気抑えてくれないかな?


「すまないな。そうそう易々と抑えられる怒りではない。

 ……ギフト・イヴェント――ふざけた名だ。偽名とすら思ってしまう」


 ああまあ……そこは同感。


「……このノクスと共に来る気はないか?」


 ノクス――それがこの男の名か。


「このノクスはギフト・イヴェントを探し出し殺す。利害は一致している」


 いやいや待て待て。こっちもグリムの王ギフト・イヴェントを探してはいるが、殺す為とは思っていないぞ。

 利害の一致はない。


「……あ、んた……は」

「! この中で口が動くか。大したモノだ」


 横を見ようと眼球だけを動かす。フォゼ……は気を失って倒れたか。


「……どうして……ギフトを」


 そこまで怒る理由とは?


「あれはこのノクスの妻を辱めた」

「――!」


 そうか。夢で視たあの女性が……この男の!

 ……ん?


「あんた……は、異……世界の?」


 人間なのか? だってこちらの世界に件の刑は存在しないのだから。

 ギフト・イヴェントの被害者ならばこちらの世界の人間とは思えないが?

 出来得る限り顔をあげる。気力を振り絞ってあげたつもりだが鼻から下しか見えず、また視界が激しく揺れて滲むせいでどんな体型なのかも確認出来ずに。


「異世界?」


 男から疑問の言葉と表情が飛んでくる。この子供は起きながら夢見てんのか? みたいな感じで。


「……ああ、そうか」

「?」

「奴は『ドーン・エリア』にいた人間だ」

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