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第43話 エンリさん、貴女方の魔法石はどこに?

 なんと、モグラ人間の毛が皮膚の中へと引っ込んでいくではないか。爪もまた同じく。

 モグラを想起させるモノ全てが消えて、残ったのは……白人のおっちゃん。三十歳くらいだろうか。鼻の下に髭を生やした男性であった。


「まあ、グリムに情報が渡るのを警戒して儂等の情報は国外に出してないからな。驚くのは無理ねぇか」


 そう言う彼の表情は渾身のドヤ顔。きっと情報封鎖がうまく行っているのが確認出来て満足なのだろう。


「これが、この国の魔法士の魔法の使い方さ。いや戦闘術の使い方って言った方が良いかね」


 魔法。これがアメリカの戦闘魔法。


「自分と相性最高の『獣の遺伝子』を呼び起こすのさ」


 ……モグラと良い相性……。


「良いんだよその辺は! こっちだって初めて変化した時は悲しかったさ!」


 悲しかったのか。可哀想に。


「同情すんなよ! ってかてめぇもいい加減降りてこいや!」


 うん?

 オレたちに叫ばれたのではない。モグラ人間は上空に向けて声を発していた。

 オレたちもモグラ人間を警戒しつつ上空に目を向ける。が、目に入ってきたのは遥か上を旋回している大型の鳥。

 ……鳥?

 とある可能性が脳裏をよぎった。モグラ人間がいる、ならば――


「……やめてよ、『てめぇ』なんてさ……」


 やはりだ。地上に降り立った鳥は鳥ではなく、鷹を彷彿とさせる姿を持つ黒人の男性だった。


「僕にはタータルって名前があるんだしさ……名前で呼んでよ」


 髪色はアイスミントグリーン、眼はブロンズだ。


「めんどくさい恋人かよてめぇは。

 ああそうだ、儂、名乗ってなかったな。

 ジャイルだ。

 宜しく頼むぜ」


 にかッと白すぎる歯を大きく見せて笑うジャイル。

 右手を差し出されたのだが……一応崖へと落とされた経験があるので油断なく握り返すオレ。


「まだ緊張してるみてぇだな。

 とけとけそんな緊張。儂もタータルも敵じゃねぇ。味方だ」


 さて、信じて良いものか?


「大丈夫、だよ糸掛(いとかけ)

石見(がらみ)?」

「スキャンしてみたけど、嘘言ってないよ」

「そっか」

「オイオイ心ん中スキャン出来んのかよ。こぇえなそれ。

 っつかお前もすぐ信じるんだな」


 手を離しながら、ジャイル。


「石見が言うなら信じるさ」


 惚れている女の子だしね。


「ふぅん。儂にゃ(わか)んねぇ感覚だな」

「あら、そうでもないでしょう?」


 またもや新たな人物の声が。発声源は近くの岩場。その裏。


「エンリちゃん!」

「ちゃん付けはやめてって言っているでしょう、ジャイル」


 岩の陰から姿を見せたるは、豹。人型の女豹だ。

 ……きちんと服を着てはいるのだが……妙に色っぽいな……。

 ガーネットレッドの髪とライトパープルの眼が艶々だからかな。


「いててててててててて」


 オレの心を読んだのか頬をつまんでくる石見である。

 無言でつまむのやめてくれないかな、怖い。


「……あんた、いつからそこにいた?」


 女豹に対して、カノ。

 言われてみたらそうだ。さっき浮遊した時にちらりと視界に入ってきた岩場。その時には誰もいなかった。


「つい先程。タータルが降りるのとほぼ同時、ね」


 まだ警戒を怠っていなかった時だ。にもかかわらずオレたちの目を盗んで隠れたのか。……いや、隠れた意味は?


「こちらとしても貴方たちが味方とは限らなかったから少し監視と観察を、ね」

「出てきたと言う事はおれたちは信用されたと思っても?」

「ええ。こう言う姿だからこそ言える台詞だけれど、野生のカンと言うモノ、ね。

 お互い敵は同じ。

 なら手を取り合う、この世界はもうそう言う世界じゃなくて?」


 そう、だな。

 敵に回った人間も多量にいるとは言え、むやみやたらに敵対する必要もなし。孤立している戦闘員なんて敵に真っ先に狙われるだけだ。


「……じゃ、改めて――オレは糸掛」

「石見です」

心樋(ことい)だよ」

「カノだ」

「フォゼです」

「ジャイル」

「タータル……」

「エンリよ」


 みんな自己紹介を終え、同時にエンリは姿を白人のモノに戻す。


「で()きたいんだけど、どうやって道路を抉ったの?」


 ずっと引っかかっていた質問をするオレ。

 あれだけの芸当を一瞬で行ったのだ。この三人は。仕組みを知りたい。


「単純よ。ジャイルが掘って、こちらが蹴って、タータルがタイミング良く落とした、それだけ」

「え? 力技?」

「そうだぜ。儂らのバトルオーラ甘く見んなよ」

「バトルオーラ?」

「こちら、獣型になるとバトルに特化したオーラを――魔法を使えるのよ。ただパワーをあげるだけの代物だけど対グリムには非常に役立つわ、ね。

 こんな風に――」


 再び女豹になるエンリ。と同時に体全体が光に包まれて――体が浮いた。バトルオーラが体を浮上させたのだ。


「すぅ!」


 思いっきり、勢い良く空気を吸い込んで、


「がぁ!」


吐き出すエンリ。

 豹の雄叫びだ。

 バトルオーラによってパワーアップされた雄叫びはグリムたちに積もっていた土にあたり、なんとぶっ飛ばした。

 なんてパワー……。


魔法石(まほうせき)、回収しないと、ね」


 グリムの体の話だ。貴重で希少な魔法石。ドロップアイテムは拾うのが基本である。

 ん? 魔法石? そう言えばエンリたちが魔法石を使用している様子はないが?


「エンリさん、貴女方の魔法石はどこに?」


 オレと同じ疑問を持ったようで、石見。


「ここよ。この中」


 そう言ってエンリは背を向ける。向けて、服を二・三度引っぱって見せる。

 うん?


「――黄色いタトゥー?」


 服に隠れた背中を覗く石見。


「ミモザカラー、ね」

「おめぇはこっち」


 オレも覗こうとしたのだが、ジャイルに阻止されてしまった。どうやらエンリの背中は見せてはもらえないらしい。……や、残念だなんて思ってないんだからね。


「儂の見ろや」


 言ってジャイルは勢い良く上の服を脱ぐ。……野郎の背中とか見たくないんですけどぉ? と思ったりはせずに(うん、本当に)素直に彼の背中を見やる。

 石見の言う通りに背中に輝くタトゥーがあった。ただし色はスカイブルー。

 あ、タータルが無言で背中見せている。パウダーピンクのタトゥーを見せたいらしい。

 そして知った。タトゥーの形は個々で違うようだ。

 でもってバトルオーラの色はタトゥーの色と同じ。


「魔法石を砕いて塗料にして掘ったのがこいつだ。

 儂らはこれを駆使して『獣の遺伝子』を呼び起こす魔法とバトルオーラを使う魔法士だ」


 このアメリカに来て初めて見た魔法だ。

 日本はグリムと同じ『言霊』を選択したが、アメリカは戦闘・戦闘・戦闘か。

 出来るならもっと観察して研究して解析して『日雷(ひがみなり)』に報告したいところだが……いや、やめておこう。ここまでの話から察するに国家ぐるみで秘匿されているようだし、それを報告する事でオレたちが処罰されないとも限らない。


「て言うか、マインらの下の道路まで抉ったのはなんでだよ?」

「あん? そんなんそっちの力試ししかねぇだろ?」


 ……報告してやろうかこの野郎……。


「ジャイルは少し粗暴だから。

 こちらとタータルは違うから安心して」


 粗暴、と言われてあからさまにショックを受けた表情になるジャイル。なんだ、エンリに惚れてるんだろうか。


「それより、魔法石を回収しないと。ここからは早い者勝ち、ね。よーいドン」

「「「え⁉」」」


 自分で言って、自分が真っ先に動き出すエンリである。

 豹の脚に勝てるか!

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