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第42話 ……生首

 ◇


 さて。

 祖国におけるグリムの最大拠点であった東京が解放された事で日本は生き返った。各地の小規模拠点も次々に人間が奪い返し、世界で初めてグリム拠点のない国になれたのだ。

 しかしそれはあくまで日本での話。

 世界はまだグリムに溢れている。ロシアも中国もヨーロッパにアフリカ、オーストラリアも。

『エンゼルエンゲージ』もまだ蔓延している。夢を思い出した大人に触発されて子供は童話の世界に想いを馳せ、グリムは生まれ続ける。

 グリムと共にいる子供たちとて取り返さなければならない。

 取り返す――そう、世界は『子供たちは「グリムの王」及び「グリムの女王」に操られている』と見ているのだ。

 果たしてそれは真実か否か。

 オレたちはまだ戦い続けなければならない。所謂「オレたちの戦いはこれからだ!」って言う状況なわけでして。

 グッとアクセルを踏み込む、オレ。

 自慢の四輪駆動車が唸り声をあげる。

 アメリカの道ってまっすぐに長くて良いね、飛ばし放題。ルート……えっとなんて言ったっけ? とにかく長い道だ。すっごい気持ち良い。

 ただな、後ろからグリムたちが迫って来ているんだよな。それも完全にオレたちに狙いを定めたBグリム凡そ三十体。


「オイ糸掛(いとかけ)! もっと飛ばせ! 追いつかれっぞ!」

「姉さんめっちゃ顔笑ってるけど⁉」

「糸掛~ランナーズハイに陥ってない?」

「みんなやば~い!」


 ホントにな!

 脚でハンドルを操作しながら後ろに向けて銃を撃ってるオレもヤバいけどな!

 日はまだ高い。夜になるまでにグリムを一掃してホテルでぐっすり眠りたいモノであるがはてさてどうなる事や――なんて感じで締めようとした時だ。

 道路が、派手な色でポップでロックなアートが描かれたアメリカの道路が、ごっそり消えた。


「「「なっ⁉」」」


 消えたと、そう思う程に道路だけが一瞬であっさりと。

 当然落下するよね。


浮け()!」


 底の見えない崖に落ちていくオレたちを四輪駆動車ごと浮遊させる石見(がらみ)の魔法。


「おも!」


 でしょうね。

 しかしそれでも石見は魔法を維持し続けてなんとか崖から脱出、すぐ横の乾いた土の大地にゆっくりと降ろしてくれた。


「さんきゅ石見!」


 そう言ってオレはすぐさまグリムたちが迫って来ていた方角に目を向ける。これがグリムたちの起こした現象なら総攻撃されると思ったからだったが杞憂に終わったらしい。グリムたちも飛べるとは言え戸惑っていたから。


「おい! なんだよ今の!」


 叫ぶカノに応えはなく。だって誰も答えを知らないから。

 車から降りよくよく道路(があった場所)を見てみると消えたのはどうやらオレたちがいた場所から後方へ百メートルと言ったところ。深さは目で確認出来ない。

 では、消えた土やらはどこにいった?

 その答えも知らなかったが、こちらも気にする必要などなかった。

 だって、グリムたちの上空に突如現れたから。


『『『――!』』』


 思い思いの悲鳴を上げて落下物に潰されていくグリムたち。次から次へと喰われた心が飛び去って行く。

 これは……援護射撃、と思って良いのだろうか? 落っことされたけど。


「オゥ! あぶねぇなお前ら!」

「うわ!」


 いきなりだ。いきなりの元気の良い叫びに驚きの声をあげてしまうオレ。他のみんなもビクッと肩を揺らしたり目を見開いたりしている。

 なぜか? オレたちの輪の間から声がしたからだ。正確に言うと下から。地面から。

 どうしてそんなところから声がするのかって? オレもそう思う。だから顔を即座に向けて確認する。


「……生首」

「ちげぇよ!」


 いや、地面に首から上だけが置かれているんですが?


「置かれてねぇよ!」


 そう主張する生首は土中から手を出し、肩を出し、胴体を出し、尻を出し、足を出す。

 どうやら埋まっていた? らしく。


「埋まるってのはちげぇな。土中を移動してきたんだよ」


 成程。そのやたらと長く分厚い爪で掘ってきたのか。うん、人間技じゃない。ついでに姿も人間じゃなかった。

 かろうじて人型を保ってはいるのだが……なんと言うかモグラ? そう、モグラが人型に進化した、と言う表現が一番合うだろう。そんな姿だ。

 敵ではなさそうだが念の為心樋(ことい)を守る位置に陣取る石見。


「……なんだ、あんた?」


 一方でオレンジの髪にサマーグリーンの眼のモグラ人間を三角に囲うオレ、カノ、フォゼ。いつでも撃てるように銃口は向けずとも銃のトリガーに指をかける。


「助けてやったのにずいぶんじゃねぇか。

 まず闘気消せよ。敵じゃねぇ」


 両手を上にあげながら。万歳のポーズ。或いは降参のポーズ。


「この姿で言われても信じらんねぇって? なら、こうだ」


 ――!

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