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第04話 チューくらいした?

「いえっふー!」

「どーした糸掛(いとかけ)⁉」

「……ごめん」


 倒していた座席を元に戻しつつ、オレは目を擦る。

 疲れたから適当なところに車を停めてお昼寝を少々していたのだ。眠気は運転の敵であるのでね。


「いや……なんか超パリピ野郎になっている夢を見た……」


 そして美少女をハーレムにしているのだ。

 オレ、そんなキャラではないのだが。


「はぁ。まあ糸掛が幸せならそれで良いよ」

「なにその優しい微笑み。可愛すぎか」

「え? 私に惚れたの?」

「とある界隈じゃ幼馴染は敗北者だそうだけれど?」

「え⁉」


 助手席に座して心底驚いた表情の石見(がらみ)

 え? そんなに驚いてくれんの?


「どうしよう……ぶっちゃけ幼馴染の立場にあぐらかいてふんぞり返っていたのに」


 そうだったのか。

 女の子のあぐら姿。興味がない事もない。……や、決しておパンティが見えそうで見えないのが良いとかじゃなくてですね。


「どうしよう糸掛⁉ 棄てないで!」

「棄てる予定はないが」


 こんな可愛すぎなリアクションとる子をなぜ棄てられよう。

 むしろ拾うわ。拾っちゃうわ。


「そうだ糸掛。私、糸掛に言わなきゃいけない話があるんだ」

「……え?」


 自慢の四輪駆動車を走らせる準備をしながら、心臓がときめいた。トゥンク。

 石見はと言うと頬を朱に染めて指をしきりに動かしていて。

 こ、これはまさか伝説の……。


「おしっこしたい」

「おしっこだった!」


 なんと言う壮大な罠。


「って、一大事だなそれ」


 とは言えここはもう道路が舗装されていた街中ではなく農村を行く土剥き出しの道(のちょっと広いとこ)。

 左右にあるモノと言えば青々とした稲穂。とてもではないが女の子が用をたせる場所ではない。男のオレだってかなり躊躇する。

 んじゃ近くに民家があるのかと問われれば――ない。

 目的であるスゥさんの工房まではあと十キロメートルくらいか。もの凄く広い田舎だ。

 スゥさんがどうしてこんな場所に工房を構えているのかと言われれば工房ゆえにと答えるしかない。魔法石(まほうせき)は貴重なモノであり、それだけに盗っ人に注意しなければならない。加えて魔法石の精錬を行える人物も貴重な存在である。スゥさんが『日雷(ひがみなり)』に属していなければ他の組織がスカウトに来ただろうし、こわ~いお兄さん方に攫われていたかも知れないのだ。

 その為、人の往来が確認出来るここを彼女は選んだ。


「早く飛ばして糸掛ー!」

「お、オオ任せろ! だから座ったままもらすなよ!」


 車、発進。


「振動がやばい!」

「ゆっくり行こうか⁉」

「それもそれでやばい!」


 どうしろと⁉






「ぷへぇ」


 おトイレから出て、石見は気の抜けた息を漏らした。幸せそうだ。石見が幸せならオレも嬉しい。例えおしっこから解放された幸せでも。


「すみませんスゥさん」

「良いのよ糸掛。

 石見もこっちにいらっしゃい。スッキリしたところでお茶にしましょう」

「はーい」


 菖蒲色の髪に若芽色の眼を持つ老いた女性――スゥさんに手招きされて、ぴょんと跳ねながら戻ってくる石見。身が軽そうだ。いや実際軽くなったのか。

 オレと石見は並んでソファに背を預けて、出されたリンゴジュースを一口。アップルパイも一口。美味しい。美味しすぎる。

 スゥさんは近くでリンゴを育てている。このジュースにもアップルパイにもそこで採れたリンゴが使われているのだが、丁寧に育てられた果実であろう事が伺える。


「お仕事の方は順調みたいね、二人共」


 横に置かれているグリムの欠片――魔法石が入った袋を見ながら、スゥさん。


「はい。て言ってもそれは危険度(リスク)Bでしたけど」

「自分を低く見せないの。立派な好成績なんだから」


 優しく言ってくる。優しくオレを正し、褒めてくれる。

 オレの祖母はオレが赤ん坊の頃に他界しているから実際の祖母の優しさに触れた記憶がとんとない。が、いたらこんな感じかな? ほっこりする。


「ところで石見」

「ハイなんでしょうスゥさん?」

「チューくらいした?」

「「ぶふぅ!」」


 とんでもない言葉をぶっこんできてくれた。思わず二人揃ってジュース吹き出しちゃったよ。


「その様子だとまだなのねぇ。二人の旅をもっと幸せにするには恋人になるのが一番なのに。おばあちゃんこのルートだけが心配だわ」

「わ、私は別に……糸掛がOK出すなら今すぐにでも良いんですけど……」


 肩までの黒い髪の毛をいじりながら。


「オ、オレだって石見が良いなら……」


 ソファについているボタンをいじりながら。


「それじゃここでキスしてみるかしら?」

「「しませんよ⁉」」

「ぶー」


 ブーイングされてもね……。


「オレ! 魔法石の精錬に必要な材料とって来ますんで!」

「あ、私もついてく!」

「あらまあキスくらいすませてくるのよー?」

「「しませんて!」」






「ま、まいるねぇスゥさん時々ああなるから」

「そうだな……」


 二人揃って農道を歩きながら。

 スゥさん、達観しているからお子さまなオレたちはからかわれてばかりだ。まったくもってけしからん。

 と思いつつオレの目は石見の唇に吸い寄せられていたり。

 うん、薄いピンク色で、もの凄く艶やか。

 数年前まではなんの意識もしてなかったのだが、と言うか色気のない子供らしい唇だったのだがどうして数年でこうなった。女の成長って怖い。


「……エロい目してる」

「してませんよ?」


 決してキスしたいとか考えてない。決して。

 そんな事を考えながら歩いていると。


ひゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガン――――――――――――――――――――――――――――――――!


「「――⁉」」


 風切り音からの轟音。

 なに? 衝突音?

 空気と地面がびりびりと揺れている。


「この振動……私の張った魔法壁になにかがぶつかったモノだ」

(わか)るんだ?」

「うん」


 となると、この辺で石見が張った魔法壁はと言うと。

 スゥさんの家だ。

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