第34話 白雪姫――勝負だ!
都庁への階段を昇る。スカイツリーだった透明な水晶と、東京タワーだった赤い水晶を目の端に捕らえながら、昇る。
『止まれ』
『止まれ』
『止まれ』
『止まれ』
『止まれ』
『止まれ』
『止まれ』
昇る。現れた危険度AAAグリム七人の制止を訊かずに、昇る。
このグリムたちには見覚えがあった。すでに発見されデータ登録されている連中だ。懸賞金もかけられている。
名は
ドック
グランピー
ハッピー
スリーピー
バッシュフル
スニージー
ドーピー
とあるSグリムと行動を共にする小人たちである。
『『『止まれよ』』』
ボぅ――――――――――――――――――――――――――――――――!
小人たちの足元から地面がマグマに変わる。けれどオレたちはそれでも脚を止めずに。
「「「――!」」」
地の怒りマグマ、それはオレたちを呑み込む直前で『銀の盾』に防がれる。
「ありがとうございます聖騎士王!」
「行け」
「「「はい!」」」
マグマを避けて進むオレたちを逃すまいと小人たちの手が動く。が、聖騎士たちの剣に首を囲われた。
その隙にオレたちは昇って、城と化している都庁内へ。エレベーターはなくなっているから階段を一息に昇る。
目指すは最上階。研究所、があった場所。
「ハッ……ハッ」
流石に、疲れた。
都庁内にて現れた小人の姿をしたAAグリムを倒しつつなんとか――石見の回復魔法で支えられながら――昇り切ったオレたちは扉を前にして息をつく。みんな疲れている中で石見はまだ回復魔法を維持し続けてくれている。ありがたい。今度ケーキバイキングにでも連れて行ってあげよう。
さて、ここで一度呼吸を整える為に小休憩を挟み、オレは、扉に、手をかけた。
「開けるぞ」
返ってくる言葉はなかった。ただ、全員が首肯した。
オレはゆっくりと木組みの扉を――開く。
「こんにちは」
「……こんにちは」
中から飛んで来たやたらと透き通った声に、その挨拶にオレは代表して挨拶を返した。
Sグリム、だ。
「名前は?」
小人たちから想像は出来るが、一応確認。
「白雪姫」
上位グリムはみな、グリム童話登場人物の名を名乗る。恐らくは自分を誕生させるに至った物語のキャラクターの名を。
この白雪姫と名乗る女性型Sグリムは、成程、確かに姫を名乗るに相応しい美貌がある。
髪の毛は水に流れる光のようで床に着く程長いブロンド(右側)とシルバー(左側)で、肌は白く、眼はゴールド。
唇はサクランボのように艶やかで、白いドレスは所々透けていて程良く色っぽい。
ただ、植物が生い茂る部屋の中には、幾人もの子供が蔓に捕えられていた。
「心樋、あの子たちが?」
「うん……」
涙を必死にこらえている心樋。ソッと石見に抱き寄せられて、すすり泣いてしまった。
「先に訊かせろ。てめぇが『エンゼルエンゲージ』にかかわっているガキ共を使ってんのか?」
「使うだなんて。友達? みたいな関係」
「そうかよ!」
『ブリンク』を構えるカノ。しかし撃たない。撃てない。
だって、非致死性対人レーザーライフル『フェイザー』を持つ子供たちに狙いをつけられたから。
「……ッチ」
「オレからも訊かせてほしい。
白雪姫、篝火を戻す方法はすでに手に入れたのか?」
「いいえ。どれも外れだったわ」
「だから殺した?」
「心のない状態を死んでいると言うのであれば、そうね。けど言わないでしょう? だって俺を倒せば心は戻るのだから」
それを訊いて――
「安心した!」
ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――!
銃声一つ。オレが床を撃ち抜いたのだ。
「無茶すんなよバカ野郎!」
床がすっぽりと抜けたせいで階下に落ちていくみんな。カノはご立腹だがこれで『フェイザー』の網からは逃れられた。
ならばやるべきは。
オレは更に一撃床に撃って更に下へと落ちていく。
撃って撃って撃ちまくって全ての階の床を崩し、瓦礫の動きを読んで――見つけた。白雪姫へと至る道を!
「カノ! フォゼ! 子供たちは任せる!」
「ああ!」
「はい!」
みっちり再教育してやらあ! そう言ってカノたちは、素早く動き回る子供たちと対峙する。
「石見! 心樋とオレのフォロー頼む!」
「ん!」
心樋を抱きしめて、浮遊の魔法と防御壁の魔法を唱える石見。
それらを見届けてオレは瓦礫の一つを踏みつけて――
「白雪姫――勝負だ!」
踏みつけて、駆けた。
短期決戦だ。オレの持つモノ全て閃光のように煌めかせ、全力を以て倒す。