第33話 キミたちは行きな、麻薬との因縁にケリを
そんなこんながありつつ。
一夜明けて晴れ渡った朝。
「じゃ、行くよ」
現在地は千葉。なぜか東京の名が冠せられている憩いの場、壮大なるテーマパークの中。
以前とある島で総元締めが潜んでいたのが遊園地だからとここに足をのばしてみたのだが見事に空ぶった。ここは廃れているのではなくて、誰もいないのではなくて普通に機能している。テーマパークとして。
ワールド・ダウングレード以降オレはここに来なかったのだが――グリムの巣窟が隣だから――よくもまあこれだけの人が集まるもんだ。ごった返す人・人・おまけにも一つ人。親子連れにカップルにお一人さま。ここだって外と同じくずいぶん様相が変わったにも拘らずすさまじい人気である。変わっても楽しいモノは楽しいと言うわけなのか人間の適応能力がずば抜けているのか。
そんな中でオレたちはパレードの見物――をする事もなく(悲しい)、ものすっごくくら~い隅の隅おまけにも一つ隅でこっそりと丸まっていたりする。石見の手をオレがとり、オレの手を心樋がとり、心樋の手をカノがとり、カノの手をフォゼがとり、石見のもう一つの手をフォゼがとり円陣を組んでいるのだ。別にこれから音楽ライブを控えているのでもなくて、演劇を控えているのでもなくて、ここから石見の魔法で東京内部に転移する為である。
え? それが出来るならさっさと飛べば良かった?
無論、それをしようと思えば出来た。出来たのだ。石見すごい。
が、しかし、but。
オレたちには決定的に欠けているモノがあった。それこそ即ち――実戦経験値。特に心樋。次いでカノとフォゼ。オレと石見だってそうだ。急いではいたもののこれから向かう先を考えるとその辺をおろそかにするのは後々飛んで火にいる夏の虫状態を作りかねない。だから、最低限度の時間と訓練及び実戦が必要だった。
それにだ。
この強襲には生き残っている『日雷』構成員の協力も必要と思われた。彼らの準備が整うまでの時間もまた必要で。
聖騎士は――どうだろう? 『日雷』上部から連絡を入れてもらっているが返答なしとの事。あの聖騎士王は物分かり良さそうだったけれど他の聖騎士がなぁ……こっち襲われた経験あるしなぁ。予定時刻に来てくれるのを祈ろう。
「じゃ、行くよ」
その予定時刻まで、3秒、2秒、1秒――GO。
「翔べ!」
「あいたぁ!」
「あ、大丈夫カノ?」
空間を跳躍して、一人着地に失敗するカノ。お尻を摩りながら立ち上がる。
「大丈夫だ。けどお尻は割れた」
割れてない方が大ごとだろう。それとも四つになったのか。後学の為に見ておきたい。
「石見、ここはどこですか?」
「おいフォゼ、少しくらい心配しろよ」
「大丈夫?」
「なんとか」
「――で、どこでしょう?」
「ほんっとにちっとだな!」
「カノ、シー。気づかれる」
なんと心樋にダメ言われるカノ。はたから見ていると幸福な場面である。
けれどこれよりオレたちが向かうのは、バトルだ。
「ここはスカイツリーのおトイレの中だよ。
全部水晶に変わってるけど――⁉」
突如、緊張に顔を曇らせる。
「石見? どうした?」
「グリムがいる」
「「「――!」」」
その瞬間、周囲を囲む水晶が割れて無数の銃弾が撃ち込まれた。
「……!」
黒ひげ危機一髪。或いは手品。例えるならばそんな感じにオレたちは必要最低限の動きで弾雨をやり過ごす。
だが、水晶は砕け散った。
飛んで来た弾は通常弾に思えたが数が多過ぎたのだ。ガラガラ、ガラガラと落ちていく水晶が静まった時にはCにB、Aと言ったグリムに通せんぼされていた。
「なんだ、軍勢かと思いきや!」
ダン! 砕けた水晶に片脚を行儀悪く乗せるは――Sグリム。
「お前の占いじゃ軍勢って話だったよなクレープス⁉」
ちょい悪青年のように威勢良く叫ぶSグリム。その背後にいるのは少女のSグリムだ。
「うるさいよズルタン。それに俺の魔法占星は外れない」
「外れてるじゃ――」
ズルタンの表情が止まった。止めたまま、上を仰ぐ。
外れてないさ。なぜって? それは――
「成程、軍勢だな」
空に開いた魔法のゲートから『日雷』所属の魔法士・準魔法士がわんさかと出現したのだから。
「キミたちは行きな、麻薬との因縁にケリを」
と、オレたちの足元に飛来するは、ガロア。
「AAA以下は周りの彼らが。キミたちSはボクを含めた――」
オレたちの周りに開く、七つの門。そこに転移して来たのは。
「『日雷』一等魔法士が相手だ」
七人の、ガロアを含めると八人の一等魔法士。
なんと心強い。
「さあ、キミたちは早く」
「ありがとう! よろしく!」
一気に駆け出すオレたち一同。目指すはかつての都庁。グリムの巣の更にその中心。
駆け抜けるオレたちを塞ぐSはいなかった。ズルタンもクレープスも他のSも睨むは一等魔法士のみ。
オレたちなど眼中にないと。ならば見事この大役こなして見せよう!