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第29話 良く動いた後はしっかり休憩をとります

「あ、ちょい待て」


 翌日。チェックアウトをする為に一階に降りたオレたちだったがカノによりストップがかけられた。

 どうした?


「土産物を見たい」

「オレの金だよな⁉」

「堅い事言うなよ安いモンだろ」


 いやこう言う場所の土産って結構高いんだぞ。


「ど~れどれ」


 あ、みんなついて行ってもうた。財布の中大丈夫かな……。


「ん?」


 おや? フォゼが固まっている。どうかしたのだろうか。近寄ってみるとどうやらアクセサリーの類を見ているようで。……アクセサリー?


「この指輪――」

「あ、糸掛(いとかけ)、迂闊に触らない方が」

「おっと」


 伸ばしかけた手を止める。

 指輪。もしかしてだが。

 オレはいつも持ち歩いているタクティカルペンを胸元から取り出して、指輪のリングをなぞってみる。するとどうだろう? 内側に小さな針が出てきたではないか。

 ビンゴ。魔法麻薬『エンゼルエンゲージ』だ。


「フォゼ」

「はい、姉さんには内緒で」


 カノは『エンゼルエンゲージ』の件になると我を失うパターンがままある。

 ここはオレとフォゼで対応しよう。


「売ってるって事は従業員もグルでしょうか?」

「いや、むしろ知らずに仕入れたんじゃないか? こんな堂々と売ったりしないと思う」

「……ですね。ズバリ()いてみましょう」

「意外と行動力あるな、フォゼ」


 で、売店のレジに立っていた男性に訊いてみたのだが、もの凄く狼狽えていた。演技が余程巧くなければ出来ない“初めて知りました感”。これは無罪だな。


「どう言うルートで仕入れたのか教えてもらえますか?」


 この時点で何者かと訊かれたからオレが『日雷(ひがみなり)』所属であると説明し、徽章と身分証明書を提示した。割と便利なんですどっかの組織に属していると。この魔法麻薬の件にグリムが関わっていると話すとあたふたしながらも対応してくれた。

 仕入れ先は――東京のショップであった。


「ふ、ん。コソコソしてっからなにかと思えば」

「「うわっ」」


 いつの間に近づいたのだ、女性陣。


「『エンゼルエンゲージ』か。気遣いは感謝するが除けモンは好きじゃないぞ」


 だから気づかれる前に片づけたかったんですよ。


「東京、か。東京ね。好都合じゃねえか。そこ行ってまず潰すだろ? で世界中のルートを解明して殲滅してやるよ」


 そうなるよねぇ。まあオレたちもそうするつもりだったから良いけど。顔怖いけど。


「まぁ、まずはこれだよ、糸掛」

「うん?」


 石見(がらみ)がなにかを出してくる。箱だ。立派な素材――木――で出来た箱。


「……お菓子ですか石見」

「それもここにしかないと言う一品です」


 オレが買えって話ですかそうですか。

 絶対一つ二つ多く食べてやる。


 ◇


 さて、東京に着くまでにオレたちが行った事をいくつか記しておこう。

 まず一つ目。


砕け()!」


 石見に向けて撃たれたカノの『ブリンク』その一射。どこまでも加速するそれは残念ながら魔法によって粉砕される。

 それでも。


止まれ()!」


 粉砕されても尚石見に迫っていた銃弾がとうとう動きを止める。止められた。


「ちっ!」


 舌を打つカノ。

 しかしめげずに彼女は『ブリンク』の銃身を海面につけて横に薙ぐ。盛り上がった海水が石見の視界を遮り、全身を濡らす。


凍れ()


 体についた海水を強固な氷へと変える石見。その首に『ブリンク』銃身での一撃を受けて少しよろけたものの砕けたのは氷だけ。海水を使って死角を作り背後に回っていたカノだったが銃身での殴打を防がれたのだ。石見の体はまだ無傷。


「これはどうよ⁉」


 ならばと氷が砕けて露わになった石見の首に銃口をピタリとあてる。

 オイちょっと待て!


「余所見は厳禁ですよ糸掛!」


 こちらはこちらでフォゼと実戦と言う名の訓練を行っていたのだが石見たちに気を取られている間に一撃撃たれてしまう。


「なんの!」


『レディ・ポイズン』の一撃だ。貰うわけにはいかない。だからオレは弾道を計算し、『ギフト・バレット』を素早く丁寧に動かす。

『ギフト・バレット』の銃身を毒の銃弾が滑って――


「――⁉」


 上空に受け流す。我ながら素晴らしい。しかしこれで終わりではない。落ちて来た銃弾を野球の如く『ギフト・バレット』で打ち返し、更に一発撃ち出した。

 毒の銃弾をフォゼはしゃがんで(かわ)し、炸裂の銃弾を炸裂する前に『レディ・ポイズン』の銃弾で撃ち砕く。向こうも向こうで器用だな。


「いって!」


 ん?

 痛がる声はカノのモノ。厳禁と言われたもののついつい目が吸い寄せられて、銃を持つカノの右腕が大きく後ろに弾かれているのが見えた。同時に石見の首が金属質に変化しているのも。

 くるくるとカノの銃弾が空中で回転している。ゼロ距離で撃ったものの弾かれて銃身にぶち当たったのだろう。


尖れ()

「うぉ⁉」


 海水が何本もの槍となって伸び、


凍れ()


凍りつき、カノの体を拘束する。


「ハイ、終了」


 こつん、とカノの額に石見の拳が優しく触れた。


ド―――――――――――――――――――――――――――――――――!


「――⁉」


 二人に目を奪われていたオレだったが、そのままの姿勢で砂浜に向かって炸裂弾を撃った。炸裂によって砂が撒き上がり『レディ・ポイズン』の銃弾を無力化。

 ()いでオレによる二連撃。フォゼの左右で炸裂させて動きを封じる。更に続けて一撃。今度はフォゼの正面。左右への動きを封じられたフォゼは飛んで躱そうとするがそこにも既にオレは一撃撃っている。だからフォゼは炸裂の銃弾を毒の銃弾で撃ち砕き、オレは更に一撃。砕かれた先の銃弾の欠片を炸裂によって吹き飛ばし、欠片が欠片とぶつかりフォゼの全方位から彼を攻め立てる。これ、欠片の動きを全て計算しないといけないからかなり難しい。けれどオレはそれをやってのけた。石見のパートナーでいる道を選んだ時からオレは自らを磨き続けている。『ギフト・バレット』の扱いは熟知済みだ。これは絶対に避けられない。が。


舞え()!」


 石見による言霊。フォゼの体が風の障壁に包まれて向かっていた欠片が全て吹き飛ばされた。


「し……死ぬかと思いました」

「ごめん。石見がなんとかするだろうと思ってた」


 だからこその遠慮なしの攻撃だった。あそこまでやらされたのは当然フォゼが強かったからだ。フォゼには自分を誇る気持ちと敗北による悔しさを忘れないでほしい。


「マインらの負けか。流石ライセンス持ちのプロだな」


 渋面を作って、カノ。


「でも二人の成長も早いよ。私教えるの上手じゃないのにグングン腕を上げてる」

「……東京に着くまでにSグリムと単独でやりあえるようにならないとな。グリムの巣に行くんだ。マインらが固まって動ける保証もない。

 だから! もう一戦だ!」

「ブー、良く動いた後はしっかり休憩をとります」

「え~」

「うっわ可愛い拗ね方」


 だいぶ仲良くなったなこの二人。

 そう言えば石見が同年代の女の子と共に長く旅をするのはこれが初めてか。久しぶりの友達。嬉しいんだろうなぁ。……嫉妬じゃないぞ?

 オレもオレで同年代の男と長く旅するのは初めてだから気持ちが(わか)るのだ。


「フォゼ、オレたちも休憩だ。ちゃんと休んで、ちゃんと食べて、筋肉痛の様子を見ながら続きをやろう」

「はい」


 では、と。オレが目を向けるのは心樋(ことい)。駐車場に置かれている四輪駆動車の上でチャーミングを抱きしめたまま横になり、お昼寝中の心樋。

 ふむ。急いで起こす必要はないから良いか。ん? 夜眠れなくなるかもだから起こした方が良いのか? ……オレ、なんか子育てしている気分です。

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