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第28話 いや~人の金で豪遊とか超気持ちイイな

「追っては……来てないみたい」


 目を瞑って魔力探知をしながら、石見(がらみ)

 膝の上に置かれている両の掌には光の粒がいくつか舞っていて、子供たちの今を光の数と強さと色で表している。


「うん、もうあっちこっちに散ったみたい」

「そうか」


 車を――自慢の四輪駆動車を走らせながら、オレは左右と中央にあるミラーで背後を確認。子供が、チラホラと映るのだが……果たしてあの子たちはシロなのかクロなのか。

 石見の魔力探知はあくまであの場にいた子供たちを探しているからそれ以外は探知外なのだ。


「なんかもう全部のガキ共が敵に見えるな」


 どうやらオレと同じ事を思っていたらしいカノ。


「いや~流石に全員てのはないんじゃないの?」


 苦笑しつつ、それでも冷や汗をかくフォゼ。

 全員……か。世界中の幼い子供たちが総元締め。考えるだけでゾッと悪寒が奔る。


「兄さん」


 くいくいっと小さな手で袖を引っぱってくるのは心樋(ことい)


「ん?」

「ワタシをグリムの世界に送った人たち、何人か覚えてるの。探す?」

「心樋を送った連中、か」


 一回殴ってやりたいところだが。しかし。


「その人たちはもう死んでるって話だよ。グリムの言葉だけど」

「え……? え⁉ 他の子たちは⁉」

「? 他の子?」


 話を()くに、グリムの世界【メルヒェン・ヴェルト】に送られた子供は心樋一人ではないと言う。世界各地で条件を変えた環境で送り込み、見事篝火を持ち帰る子を待ち続けたのだと言う。


「そんなんしてたんかい……」


 どこまでも突っ走っているな。


「でもよぉ、それだと心樋より先に送られたガキは絶望的だろ。残ったガキ共は無事なのか?」


 遠慮がない物言いっすね……。


(わか)んない……大人の人たちが死んでるって知ったのも今だし」

「まあ、そりゃそうか。

 んじゃよ、ガキ共が生きていると仮定するだろ? そいつらも元に戻す手段を見ている可能性あるんじゃないか?」

「狙われるかもって話か?」

「ああ」


 だとすると、かもではなくすでに狙われているだろう。心樋と同じように。


「心樋、その子たちに会いたいか?」

「会いたい!」

「了解。兄さんに任せなさい」


 とは言いつつあては心樋以外ないのだが。


「まず日本での研究所――みたいな場所を教えてくれ。覚えてる?」

「うん。東京だよ」


 やっぱ東京か。かつての日本の中心。現在はグリムの日本における最大拠点となっている場所。だから『日雷(ひがみなり)』の総本陣は京都に作られたのだ。

 つまりグリムがわんさかといる場所に突っ込むわけだが、可能か?


「石見。グリムのいない通り道って魔法で解る?」

「え~、難しいけど……不可能じゃないと思う。道があればなんだけど」


 一つくらい――ないかな?


「まず行けるところまで行ってみるか。

 カノ、フォゼ、それで良い?」

「オ~」

「OKです」

「それじゃ……………………道が解らん」


 なんせカーナビは機能していないので。


「お前は阿呆なのか」

「ほっといてくれ。

 石見、地図を」

「ハイハイ」


 荷物をいれているバッグから紙の地図を取り出す石見。変化しても道路の敷かれている場所は変わっていないので古い地図がそのまま通用するのだ。


「ナビするから進んでねぇ」

「あいよぉ」


 ……なんか良いなこれ。恋人のナビでデートとか。デートじゃないけど。二人きりでもないけど。






「近くにホテルあるから今日はそこに泊まろうよ」


 三時間ほど走って、日はすでにオレンジ色。石見の言う通りにしなければ夜になってからホテルを探す事になる。夜に出歩くのは色んな意味で危険だ。現状大分マシになったとは言え世界が変わってしばらくは荒れに荒れた。その余韻は今も燻り続けている。


「ま、マインは変なやつが出てきたら容赦無用でタマ撃っちまうけどな」

「こわっ!」


 思わず内股になるオレとフォゼである。


「あ、糸掛(いとかけ)ちょっと停めて」

「うん?」


 スピードを落として、横に寄せて停車。


「ちょいっと待ってて。古栞(こおり)に手紙出してくるから」

「手紙?」


 あ、だから石見、ポストの近くでストップかけたのか。でも手紙とは?


「呪いについて解ったからその報告。メールアドレスは訊いてなかったからさ」

「オオ、成程」


 すっかり忘れていた。てへ。


「男のてへぺろは可愛くねーぞ」

「ぺろはしてないぺろは」


 てへはしたが。てへぺろ。あ、しちゃった。

 こっちがふざけている間に石見は降車していて、ポストに手紙を投函。戻ってきた。


「おっけ。出して良いよ」

「はいよ」






「お~なんて言いましたっけ? ほら、日本の有名なアニメ」

「ジ●リ」

「そうそうそれです糸掛。それに出て来そうですね」


 ホテル――に着いたと思ったのだが、どうやらワールド・ダウングレードでがらりと変わってしまったらしい。ホテルは見事に和風に置き換えられ、巨大なボックス型の旅館となっていた。さながら聳え立つ砦。フォゼ超大喜び。こう言うのが好きなのか、ちょっと意外。


「ところでだ。宿泊費、糸掛持ちな」

「は? なんで? 心樋はともかく」

「マインらあの島からちょくだぜ? お金持ってると思うか? 今まで誰がアクセ代払ってた?」

「……」


 そうか……そうだったな。つまり無一文が二人いるって話で、その分誰かが出す必要があるわけで。で、男のオレと。成程。……男女公平ってなんだっけ?






「一泊一人七千円か……七千円……給料が出るか解らないこの時期に七千円か……」


 結局、石見の分もオレが出した。いやあカノたちの分出すのに石見だけ自腹ってわけにはいかないじゃん?


「ぶつくさ言うなよもう払っちまったんだあとは楽しむのみよ」


 バシンバシンと背中を叩いて来る。痛いんだが。身も心も懐も。


「上機嫌だな、カノ」

「いや~人の金で豪遊とか超気持ちイイな」

「豪遊はさせないぞ⁉」


 今日はこのまま夕食、んで寝るのだ。それで終了。


「あ、ここから横四つの部屋だよ」

「ああ」


 オレと心樋、石見、カノ、フォゼ。これで四部屋だ。


「夕食は糸掛の部屋に持ってきてくれるように言っといたよ。みんなで食べようね」


 それって絶対食べた後なかなか解散しないで結局雑魚寝するパターンですよね?






 結果。予想通りでした。

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