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第26話 心樋って……昔からおっさん趣味だったね

 ……今サラリとすごい宣言しなかったか?

 これには流石に他のメンツも面食らったようでざわめきが波となって広がった。だがネゥさんはそれを華麗にスルーして話を続けるのだ。


「アリの巣を想像しろ。地面に穴が開きまくっている姿だ。

 ワールド・ダウングレード以前の世界はそんな感じだった。長く存在し続けたせい+痛めつけ続けたせいで綻びが出来てきたんだ。それを穴埋めする為に篝火を奪った。

 が、篝火はこちらを焼いてグリム共を降ろした。

 それで穴は埋まったんだがな、ただそれは正確に言うなら埋まったと言うより変貌したと言った方が正しい。

 わたしらの世界は改竄され、世に魔法ってモンが放たれた。

 魔法石(まほうせき)は元々グリムの死体だ。そう考えると気持ちの良いモンじゃないが、人にとって有益に働く。使う価値はある。

 が、子供たちの想いが途切れ始めているせいで篝火が消えようとしている。

 みな魔力の減少を感じ取っているものと思う。いずれ枯渇するのかそれとも世界がなにか学習して手段を講じてくれるのか(わか)らんがこれによってグリム共を排除出来る可能性が出てきた。向こうはこれをきっかけに動き出したわけだが。

 グリムの話によるとグリムが人の心を狙うのは人を理解しようとしての事らしいが、その結果は破綻だ。

 だもんで、人とグリムの大衝突に突入した。既に大半の魔法士組織は崩されている。うちも聖騎士(パラディン)も大ダメージを負った。

 気づいているモノもいるだろう。

 連中、ここに来るぞ」


 早口で捲し立てられた。ずいぶん急いでいるように思えるが?

 なんて疑問に思う必要もなかったのだ。だって答えがすぐに現れたから。


ド―――――――――――――――――――――――――――――――――!


「「「――⁉」」」


 空間が凄まじく震えた。召喚・転送時に来る震えだが規模が大きい。これは、防御結界が敷かれているここに無理やり入り込んだからだ。それも相当な数が。


糸掛(いとかけ)……」


 石見(がらみ)がオレの背に背をあててくる。背から感じる石見の体温は暖かい。けれども少し震えているか?

 無理もあるまい。

 だって講堂がグリムと裏切りの魔法士たちに囲まれているのだから。


「オイオイこいつはちっと厳しくねぇか?」


 いつもは強がっているカノですらこの通りにビビっている。

 敵の総数は――三千以上か。

 こちらはと言うと多く見積もって三百。

 どんだけ不利だ。


『全員落ち着け!』


 ゲキが飛んだ。この場のリーダーたるネゥさんから。

 ただしそれは声に出されたのではなくて魔法による念話通信。


『この施設に魔法陣が敷かれているのは知っているな?』


 敷かれている魔法陣……緊急時の自爆用魔法陣だ。


『そいつを最大にして起動させる』


 ――!

 手放すのか、ここを。


『巻き込むだけ巻き込んでやるさ。みなは転送術式に入れ。敵に気づかれる事なく魔法陣を作るんだぞ』


 難しい注文だ。人に見えない形で魔法陣を描くとなると心の中に描くと言う話になるがそれが可能なのは一部の上級魔法士だけである。当然残念ながら準魔法士であるオレに出来るはずもなく。

 だから。


「私が描くから糸掛は私の手に触れてて」

「ごめん、頼む」


 言われた通りに石見の手を握る。小さい、柔らかい。けどやっぱり震えている。


「うん。

 カノとフォゼ、二人も私の肩を掴んでいて」

「悪いな」

「世話になります」

「ん」


 石見の魔法士としての腕はかなりのモノだ。しかし転送魔法を使った姿を見かけたのは指で数えられる程度。失敗の方が多かったりもする。

 だが今は信じる。宜しく頼むよ石見。


心樋(ことい)もおいで」

「うん」


 石見に呼ばれ、空いているもう片方の手を握る、心樋。


「あ、ちょっと待って」


 駆け足でガロアがやって来た。

 彼は到着するといきなり――


解法()


 飛び跳ね前足で石見の額を叩いた。肉球柔らかそう。

 なんて事を思っていると。


「――!」


 石見が目を泳がせた。戸惑い、か?


「キミにかけておいた記憶の封印を解除しといたから。

 心樋の想い出、思い出したね?」

「……はい」


 え? と心樋が顔を石見に向ける。


「心樋……心樋って……昔からおっさん趣味だったね」

「それはどうでも良い!」

「危ない!」


 石見、脛を蹴られそうになる。

 石見におっさん扱いされて聖騎士王(ロード・オブ・ナイト)の眉が跳ねた気がしたが、気のせいだろう。


「――て言うかオレは?」

「キミは自分で思い出しなさい」

「え~?」


 そんなん出来たら苦労しないんですが。


「出来るよ、覚悟とキミの銃があれば」

「え?」

「ボクの封印だけを穿つんだよ」


 封印だけを穿つ。魔法具として機能している銃だからこそ出来る芸当だよ、そうガロアは続ける。


「ただし、失敗したらキミの記憶をごっそり奪うだろうけれど」

「怖い事をあっさりと!」

「え? 出来ないの? ボクの生徒なのに?」


 ……この犬は……。


「ボクはスゥとシエルを連れていく。心樋を守ってよ子供たち」


 視線を交わし合い、首を縦に振る、オレたち。

 守るとも。言われずともね。


「石見、魔法陣は描けたかい?」

「はい」

「では、『ネゥがあと五回瞬きをしたら発動。他のみんなもタイミングを合わせて。ミスすると自爆に巻き込まれるよ』」


 全員、敵にそうと悟られないように言葉を()き届けただろう。ガロアに向く視線もなければ頷いたりもなかったが、それで良いのだ。気づかれたら転送魔法を邪魔されるのだから。


「敵方に言おう! わたしはネゥ! 『日雷(ひがみなり)座元(くらもと)ネゥ! わたしの首が欲しければ取りに来い!」


 敵勢力の目が勇ましく扉を開け放ち堂々と言い放ったネゥさんに向く。その頃には四度目の瞬きが終わっていた。

 最後の瞼が――落ちる。


翔べ()!」


 タイミングを見誤ず石見は魔法を発動させて、それにみんなの声も重なった。

 同時に。


――――――――――――――――――――――――――――――――――!


「「「――⁉」」」


 総本陣全体が輝く。

 自爆魔法、発動。

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