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第25話 わたしが直々にぶっ飛ばす

 オレたちを取り囲むこの人たちは……『ロスト・パラベラム』の運営に加えて名の知れた魔法士に準魔法士。プロ中のプロばかり。

 冗談……だろ?

 非常にまずい。まず過ぎると言っても過言ではない。


「なに、心配はない」

「は?」


 心樋(ことい)を護る聖騎士(パラディン)が一歩前へ。いやいや、聖騎士と言えどこの人数が相手では――


「みな、準備は出来ているな?」

「「「は!」」」


 うぉう⁉

 度肝を抜かれた。何者かがオレたちを包囲する連中に攻撃を仕掛けたのだ。魔法士でも準魔法士でもない機械を纏う騎士。そうして魔法を再現する騎士。

 聖騎士か? って言うか聖騎士に号令を出せるこの人は何者だ?


「大丈夫、兄さん」

「心樋?」


 手を握られた。覚えてもいない妹に。小さくて、白くて、弱々しい手。しかし思ったよりも握力のある手。


「あの人は『人赦聖騎士団(アイディール・ナイツ)』“聖騎士王(ロード・オブ・ナイト)”――シエルだから」

「ロ――⁉」


 聖騎士王⁉

 が、どうしてここにいる?


「オイどうなってんだよこの状況⁉ ギフト! こいつら味方で良いのか⁉」

「オレに()かれても!」

「味方。そのあたりはボクが保証するよ」


 え?

 声。ずいぶん懐かしい声が耳に届いた。ここに彼がいるのではなく声だけが魔法で届いたのだ。


ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――!


「「「⁉」」」


 雷が落ちた。

 百あったオレたちの包囲陣全てに。

 プロ中のプロである連中の魔法障壁すら貫いて、貫かれて、海に浜にと倒れていく。

 この凄まじいまでの威力は――『日雷(ひがみなり)』の『座元(くらもと)』⁉


「みんな気をしっかり持ってね。こっちに転送するから」


 再び耳に届く声。懐かしい声、ガロアの声だ。


召喚()






「うへぇ……」

「な、情けない声出すなフォゼ……」


 そう言うカノの声にも覇気はなく。二人はぐったりと体を横たえていて、かく言うオレも同じ状態なのだが。強制転送は初めての経験だった。まさかこんなにも酔うモノとは……。


糸掛(いとかけ)!」


 そんなオレに駆け寄ってくるのは石見(がらみ)。イの一番にオレのところに来てくれた。可愛い子である。


「石見……は、大丈夫なんだ?」

「私が転送されたのは十分以上も前だから」

「あ~そっか」


 喋りながらも回復魔法をかけてくれている。感謝しつつ周りを見るとカノとフォゼ、シエルに心樋にもそれぞれ魔法士がついている。

 更に周りを見るとここが空の下で建物に囲まれているのに気づいた。ワールド・ダウングレード以降に建てられたまだ新しい建造物で、京都にある『日雷』総本陣の中庭だった。


「やぁ、久しぶり」


 ザクッと土を踏みしめる音。四本の足の獣、犬。象牙色の毛に香色(こういろ)の眼を持つ大型犬。


「ガロア」


 世界が変わり、魔力の影響をもろに受けて人語を操るに至った老犬ガロア。

 オレと石見の先生。


「糸掛、キミに少し自慢しよう」

「は?」

「心樋を見つけ保護したのはボクだ!」

「それがどうしたクソティーチャー!」


 いや良いんだけどね誰が見つけても! 悔しいけどね! オレが見つけたかったのに!


「あらあら、ガロアのいじめっ子」

「痛い!」

「あ」


 自慢げな表情を浮かべるガロアの頭部にチョップ一つ。『賢人』ガロアにそんな態度をとれる人物は世の中広しと言えどただ一人。数少ない『賢人』――ガロアと同列――である、


「スゥさん」


――だ。

 なぜにスゥさんまでここに?


「キスした?」

「「してませんが」」


 どんだけオレたちがくっつく未来望んでんすか。オレも望んでるけどね。


「残念。

 糸掛、石見。それにみなさんも。奥で一息つきましょう? ちょっと世界中が大変な事態になっているから。

 わたしの姉、座元から話があるわ」






「さて、まずは潜入お疲れさん、石見に糸掛」

「はぁ」


 スゥさんの姉、『日雷』トップ『座元』ネゥさん。菖蒲色の髪に若芽色の眼、老体である彼女の招集を受けてオレたちは総本陣で最も広さのある講堂へと集められた。壇上に立つネゥさんは立っているのがめんどくさいと言うので座椅子に腰かけていて、その横にはガロアとシエル、それに心樋が座している。


「他の連中もご苦労さん、だいぶ数は減ったが」


 ふぅ、と深いため息を零される。

 オレは講堂に集められているみんなに目を向けるとその顔をざっと確認。実力の知られるお偉方は大体揃っている。しかしオレたちのような立場にいる構成員は……本当に数が減ったな……。

 ただ一部が増えてもいるが。聖騎士たちだ。シエルの号令で集められたのだがこちらもこちらで数は減ったらしく、それを確認したシエルはやはり深いため息を一つ零していた。とは言え聖騎士王直属と言われる“王属聖騎士(ロイヤル・ナイツ)”計七名は全員が無事に揃っている。


「あの、ここおれたちがいても良いんでしょうか?」


 こっそりと耳打ちをしてくるのは、フォゼ。吐かれた息が耳に届いてちょっとくすぐったい。


「良いんじゃねぇか? 巻き込まれたのこっちだし遠慮なくいようぜ」


 と応えたのはオレではなくカノ。

 カノたちの事をネゥさんに説明しようとしたのだが今に至るまで面会叶わずだったので結局話せないまま。ガロアが彼女らも共に転送してくれた事、ネゥさんが登壇の際に一瞬視線を向けたもののなにも言わなかった事を考えると既にご存知の可能性も多々あるな。

 銃の使用量と性能を個人の技量と照らし合わせた結果問題ないと判断された為魔法具・銃は卒業、見事データを上げつつ生き残った二人は褒美として釈放となったのだろう。因みにデータを上げられず逃げまくっていたら釈放はない。


「現状の確認をするぞ。

 グリム共に丸め込まれた連中が心樋を狙っている。目的は眼球。篝火を取り戻す(すべ)を心樋は見ていると考えられているが真偽は(わか)らん。本人は知らんと言っているしな。

 そこでわたしらの今後の行動だがグリムの為にこの少女を犠牲に出来るやつ、挙手しろ。わたしが直々にぶっ飛ばす」


 そんなん言われて挙げるやつがいるかい……事実誰も挙げないし。

 ただみな呆れてはいるものの愚痴は出てこない。元より挙げる気などなかったのだろう。


「良っし良し。

 心樋は護る、これは決定だな。

 では今までお前たちに黙っていた件を一つ話してやろう。人間が篝火を求めた理由だから耳の穴かっぽじって良く訊けよ」

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