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第23話 このダウングレードワールド、そんなに嫌いじゃないんだよ

『ギフト・バレット』、起動。

 飛来する銃弾がフェレナントの顔、胴、両腕、両脚を吹き飛ばした。いよっし。

 オレは影から出て、別のハンターに気を配りつつたった今倒したばかりのフェレナントに近づいて行く。カノとフォゼが先に出てきたからだ。オレが到着した頃にはもう二人はフェレナントの残骸を手に取って結晶を探し始めていた。


「……ねぇな」

「こいつは全身を治していた。だからてっきり粉末状の結晶を全身に撒いているのだと思ったのですが……」

「そうなのか? オレはこいつの体、魔法石そのものが結晶の役割を持っていると思ったんだけど」

「どちらも違うな」

「「「――⁉」」」


 声は、倒れるフェレナントから。

 瞬時にオレたち三人は距離を取った。撃つには近すぎる距離だがそれでも銃を構えつつ。

 まだ――生きているのか!


「俺たちSグリムは、魔力こそが結晶だ」


 蠢くフェレナントの残骸。ドロッと液状に変化し収斂していく。

 魔力が結晶だって? こっち魔力を断つ(すべ)なんて持ってないんですが⁉


「お前は糸掛(いとかけ)だな? 心樋(ことい)の兄。

 俺たちが篝火を取り戻す為に役立ってもらおうか」


 睨まれた。眼光は鋭くて一瞬全身に痺れが走った。


「……あいにく、グリムに協力する気はないな」


 冷や汗を背に流しながらなんとか言葉を口から発す、オレ。


「なぜ? この世界に篝火が必要か?」


 収斂を続けていたフェレナントの体。が、元に戻ってしまった。


「なぜに人間共が篝火を求めたのかはどうでも良い話だが、結果俺たちグリムは生存を危ぶまれた。いや、その危機は今以て続いている。

 お前たちはグリムに死ねとでも?」

「それは――」

「はっ! 人の心を喰いまくって来た連中がなに言ってやがる!」


 オレが言い淀んだところにカノが吠えた。迷う事なく吠えた。即断実行、素晴らしいな。


「全て人を理解しようとした結果だ。Sになっても出来なかったがな」

「だったら他のグリムを止めやがれ! ムダだって広めやがれ!」

「バカか? 俺に出来なかったからと言って他の個体の可能性を否定する材料にはならない」


 銃声。オレがフェレナントの銃を破壊した音だ。


「……割と冷静なのだな」

「お前もな」


 当然か。なにせやつにはまだ魔法がある。


「一つ()きたい。お前がハンターとして動いているのはなぜだ? 人間に使われているのはなぜだ?」

「問いが二つになっているが、まあ答えは一つか。お前たちの上はすでに俺たちに協力する人間で埋めつくした」

「「「――!」」」


 人間がグリムに協力⁉


「ちょっと待ちやがれ! だったらそいつらから篝火を奪った理由訊けよ!」

「真相を知っている人間はもういない。連中は篝火を奪った後に全て自害している。篝火を戻す方法と共にな」


 なっ……に。

 言葉を失った。

 目的を果たして自ら口を塞ぐとは。無責任なのか根性があるのかどっちだ。


「だがまだ可能性はある。それが心樋だ。心樋はどこかでその(すべ)を見ている可能性がある。見てさえいればその眼球から記憶を読み出す事も可能。

 糸掛、お前が泣き叫べば妹である心樋も現れるだろうか」


 ――!

 悪寒が走った。オレの全身の細胞が警告を発する程の殺気を浴びてだ。

 だが。それでもオレは銃を構えた。


割れろ()

「――ぐっ⁉」


 銃身に走る重い衝撃。弾かれて銃口が跳ねあがる。


「壊せないか。頑丈だな」


 当然だ。これには石見(がらみ)の魔法で強固な壁が造られているのだから。


「ならばお前の体を痛めつけるまで」

「勝手に二人の世界に入ってんじゃねぇよ!」


 一歩踏み出すフェレナントに向けて『ブリンク』が放たれる。続けて『レディ・ポイズン』も。

『ブリンク』の銃弾を受けて顔面に穴が開き、毒を受けて腹が腐る。

 だがフェレナントは腹の治癒と同時に更に一歩踏み出して――くず折れた。


「……なに?」


 声が、全身が震えている。魔力に毒が巡っているのだから当然か。


「悪いな、オレたちにも情報が必要だったんだ」

「ひと芝居うたせていただきました」


 毒は体に撃たれたのではなく、魔力を撃ったのだ。


「マインらの銃は魔法具。てめえ魔法に驕ってたろ? だからマインらの銃が物理以外も崩せるって事実に気づかねぇんだよ。

 まあ、そのレベルに行きつくやつはひと握りだけどよ」


『ギフト・バレット』の銃口が倒れるフェレナントの胸に当たる。心臓がないのは(わか)っている。ただなんとなく楽にしてやるならここだと思った。人を理解する為に人に近づいた存在だから。


「……オレはな、フェレナント。このダウングレードワールド、そんなに嫌いじゃないんだよ」


 そうさ。ファンタジーに憧れている人間は山のようにいる。オレもそんな山の一つの木だ。


「……篝火を返せ」


 だが、睨んで来るフェレナント。これも当然か。オレたちの憧れはグリムの世界の犠牲によって成っているのだから。


「そんな方法は存在しない」


 篝火を返す方法など。


「……なぜ」

「言い切れるのかって? 例えばオレが知っているならとうに教えているからさ。心樋がオレの妹ならオレと似たり寄ったりな思考のはずだ。黙っているとは思えない。

 そうだろう、心樋?」

「――――――――――――――――――――――――――うん」

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