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第15話 彼らは息をするように人を殺すバカ――もとい、天才ですから

「もう一時間か……」


 例のグリムとの会話のせいで緊張が全く取れない中、休憩に使って良い時間が過ぎようとしている。

 オレはベッドから体を起こし、軽くジャンプした。うん、痛い。マンガじゃないんだからそうそう回復はしてくれないか。


「でも行かなきゃな」


 燭台に立てかけてある『レディ・ポイズン』に手をのばし、握る。あ、そう言えば銃弾もらってなかった。ハンターを自称するグリムから逃げてこの部屋に来たせいで寄るのを忘れていた。


「……致命的だな」


 逃げて、弾切れしていたら世話はない。

 オレはゴーグルで部屋の外の熱源をチェックし、誰もいないのを認めるとドアを開けた。

 耳をすます。静かだ。誰もいない程に静かで、争いの音なんて一つもない。

 ま、それはこの『家』に限りだが。

 ドアをゆっくりと閉めて廊下を進む。

 まずは銃弾をもらう為に専用の窓口へ。


「こんにちは」

「こんにちは」


 丸い窓口に立って、挨拶を一つするとちゃんと挨拶が返ってくる。これしないと話し相手は不機嫌になるから忘れてはいけない。


「ギフトさん、ご無事でなによりです」

「ええまあ」


 殺し合いをさせている側なのに良く言う。男か女か(わか)らないカーテン越しの声だが、優しさにあふれているのも少しムカつく。


「ハンターに遭遇したそうですね」

「はい。ハンターを知っているって事は島の閉鎖は本当なんですね」

「そうです。近く運営からも発表があります。とくに口外禁止ではないので言って回っても構いませんよ」


 オレが言ったところで誰も信じないと思うが。言われてせいぜい「あいつ言い訳して逃げようとしてるぜ」くらいだろう。


「ハンターはすでに外で活動しているんですか?」

「その通りです。彼らは息をするように人を殺すバカ――もとい、天才ですから」


 ……今一瞬本音を()いた気がするが、訊かなかった。なにも訊かなかった。


「ハンターの正体については?」

「正体?」

「いえ、なんでもありません」


 知らないなら教えない方が良い。余計な話を知ると殺される、定番だ。


「『レディ・ポイズン』の弾倉をお願いします」

「はい。既にご用意出来ています」


 カーテンの隙間から新品の弾倉が出てくる。オレたちは常に監視されていて、新型銃のデータは常に送信されているから残弾数も把握されている。だからこその早さだ。


「それじゃ、オレはこれで。また来ます」

「はい、またいらっしゃいませ」


 サヨナラとは言わない。初めてここを利用した時に言ったら「それ、永遠の別れみたいなので言わないでください。言われたらキレます」と返された。どの程度キレるのか不明だが弾もらえなかったら困るし、最悪、即・殺される可能性もあるから素直に従っている。

 さて、出るか。

 窓口を離れて玄関へ辿り着いたところで――


「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ――ところで玄関に声が響いた。オレとは逆に『家』に入って来た少女が叫んだのだ。


「ああ! また逃がした! くっそぉ―――――!」

「姉さん、声が大きい」

「あんたが小さいんだよ! あ! レイパー!」


 オレを見つけてずかずかと寄ってくる少女。因みにレイパーと言うのは和製英語だ。正しくはレイピスト。この島でのオレはレイプ犯と言う設定ではあるが渾名として使わないでほしい。


「一日ぶりだな、ちっこいの」

「ちっこい言うな! マインはカノだ!」


 その身長百四十八。それでも年齢は十八歳。確かに彼女の属する白人にしては小柄だが東洋では小さい方がモテる。前にそれを言ったら「マインに故郷を捨てろとでも?」と睨まれたが。


「姉さんがすみません」


 そう言って頭を下げるのは弟のフォゼ。

 その身長百八十。年齢十八歳。つまり双子なわけだがどうしてこうも体格に違いが出た?

 髪の色と眼は同じミルキーピンクの髪にシアンの眼なんだが。


「狩りの対象に逃げられたので機嫌が悪いんです」

「あー、魔法麻薬の?」

「はい」


 二人は現在この島にいる囚人の一人――とある魔法麻薬製造の総元締めを追っている。相手は中々に骨が折れるらしく五か月間ずっと逃げられている。


「ひどいやつだよ! 自分で使うなら勝手に壊れろだけど他人がキメてるのを見て喜んでるんだ。胸糞が悪い」


 口の悪いお嬢さんです。


「まあひどいのはおれたちもなんですけどね」

「なんでだよマインらが()ったのは密売人だろうがそれで死刑っておかしいわ!」

「姉さん十三人()ったでしょ。()りすぎなんだよ」

「お前も四人だろ同罪だ」


 うん、同罪だからここに一緒に送られてんだけどね。


「ちょうど良い。ギフト、標的決まってないならこっち手伝え」

「え~?」

「男が「え~?」とかすねても可愛くないからな?」


 それは知っている。ただ本気で嫌がっただけだ。騒がしいから。


「二人休憩しに来たんじゃないのか?」

「弾倉取りに来ただけだ。マインのはもう撃ち尽くした」

「おれもあと数発ですね」

「ちょっと待ってろギフト。すぐ戻る」


 逃げようかな?


「因みに逃げた場合お前のケツの穴が二つになると思え」


 ……それはイヤだな。

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