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第13話 まあ良いや。死のうか

「ギフト、ギフト、起きて」

「…………」


 若い女性の声にオレは瞼を持ち上げる。

 天井にぶら下がるライトが目に入ってきて一度瞼を閉じ、横を向いてもう一度開ける。


「治療は終わったよ。

 立って、行ける?」

 ああ、医者――医者役の石見(がらみ)か……。

 石見の目が潤んでいる。泣きたいのを必死にガマンしている。


「あ……りがとうございます」


 オレは弱々しくそう口にした。オレたちの関係は一部を除き秘密にしなければならないから敬語。バレたら参加者に八つ当たり気味に狙われるおそれがあるのでね。

 ベッドから降りて、玄関へと向かう。

 その途中で、


「ギフトさん、忘れものです」

「あ、ああ……ごめん」


看護師の女性から『レディ・ポイズン』を受けとった。


「えっ……と、いってらっしゃいませ」


 その女性看護師はこうも言ってくれた。困った表情をしているのを見るになんと声をかければ良いか迷った末の一言だったのだろう。それが妙に……嬉しかった。


「……ありがとう」


 ちゃんと笑えていたかは(わか)らない。けれどオレ的には笑っていたつもりだ。こっちの気持ち、伝わっていると良いな。

 女性看護師の後ろでは石見が密かに手を振っていた。オレは一度首肯して、外へと出た。






 殺傷禁止区域である医療の詰め所から外に出た瞬間に撃たれる可能性も考えたがどうやらそれはないらしい。

 ここには困った連中が多いが殺し合いを出来得る限り避けたいと思う連中も多いのだ。

 半年生き抜けば死刑から一転、釈放されるから。

 それこそがオレたち参加者に与えられる最大の報酬。みんなそれを目指している。まあ釈放されてもGPSで追跡・監視つきだけど。

 その報酬があるからこそ、みんなこの環境でもルールに従順なのだ。ルールと言っても厳しいモノではないのだが。


 一つ、撃って良いのは囚人と危険思想者だけ。

 二つ、スタッフ側に身体的・精神的危害を加えたらその場で射殺。

 三つ、外で行動して良いのは朝八時から夜の八時まで。

 四つ、半年データを上げつつ生き抜けば釈放(データ量は秘密)。

 五つ、上記を破らない限り衣食住は保証する。


 これだけだ。

 では、治療を受けたものの完治なんてしていないから休憩をとる為に一先ず『家』に向かうとしよう。






 一面が黒い防弾ガラスで出来ている『家』は綺麗な円形になっていて、高さこそ低いが――三階までです――妙な圧倒感がある。黒いからかな? それとも殺伐とした空気のせいか?

 ここでオレたちは揃って寝泊まりしている。今日殺し合ったばかりの連中と顔を合わせながら食事して、テレビやゲームに興じ、個室で寝る。

 なんともイカれた場所だな。


「ん?」


『家』の玄関で鼻に届いてきた匂いにオレは思わず足を止めた。ここは土足OKだから玄関に置かれているのは予備の靴と古びて放置されている靴だけだが、別にそれらが悪臭を放っているわけではない。わりと清潔に保たれているから。

 ではどんな匂いなのかと言うと――血の匂いだ。


「『家』で血?」


 ひょっとして料理か? とも思ったがそれにしても濃い。多分料理とは違う。

 オレは肩にぶら下げている『レディ・ポイズン』を手に取って用心しながら廊下を進む。

 ……人の気配があまりないな。

 当然か、今は午後四時。本来まだ外で殺し合いをしている時間だ。その時間帯に休憩が認められるのは昼食タイムを入れて最大一時間。料理人と清掃員はいるだろうがそれとて人数は少ない。スタッフが仲間割れを起こした――とは考えにくいか。そうならないだろう人選が行われているから。

 曲がり角にさしかかった。

 オレはいったんそこで停止して曲がった先の通路を確認する。角から靴についている鏡を覗かせ様子を見てみると――


「――!」


 いた。倒れ込んでいるやつがいて、そいつの頭に銃口を向けているやつも見えた。どっちも男だ。

 この殺傷禁止区域で銃撃戦があったのか? あちこちにカメラつけているくせに運営側はなにしている。

 パンっ 大きく響く重い音がした。倒れていたやつが頭を撃たれたのだ。しかし反動で体が動いただけでそれ以外ピクリともしない。ひょっとして既に死んでいたところにヘッドショットを喰らったのか? なんて凶行を。


「そこ」


 ――! オレの体が反射的に動いた。覗かせていた鏡を引っこめたのだ。

 撃ったやつが声をあげたから。こっちを見てはいないが、誰に話しかけた?


「そこに誰かいるよね?」


 ゆっくり、そいつはオレの方を見る。あ、やっぱりオレに向けて放たれた言葉か。

 それならどうする? 逃げる? 出ていく? 撃つ?

 もう一度、今度は顔を出して相手を確認する。が。

 相手もゴーグルをつけているせいで顔が解らない。表情からオレに向けている感情が解らないから迂闊な行動は出来ないな。


「俺の知っている人かな? 知らない人?」


 声には特徴がない。低くもなく、高くもなく。声から誰かは判断出来ないか。けど向こうもオレを特定出来ていないようだ。

 ならば。この場は逃げ――


「まあ良いや。死のうか」

「なっ⁉」


 二枚の板のような金糸雀色(かなりやいろ)の金属銃身を持つ巨体銃。それを簡単に撃って来やがった。しかもなんだこの銃弾は? 今、目の前を行き去ったのは光の弾に見えたが? しかも当たった壁の大きな弾痕を見るにさっき倒れているやつに撃たれたモノとは威力がまるで違う。魔法具に流し込む魔力の調整が出来ているのだ。ベテランのように。

 ここにいるベテラン……オレと同じタイプ、か?

 なんて分析している場合ではない。オレは急ぎ足を動かしその場を離れた。


「ん~、ムダなんだよね」


 は?

 男の悠長な言葉に思わず振り向いてしまった。するとどうだろう? なんと銃弾が曲がって追尾して来たではないか。


「オイオイ!」

「『レイ・ガン』。魔力そのものを放出出来る銃だよ。その気になったら大穴開けられるよ」


 洒落にならない。そいつは洒落にならないって!


「撃ってこないと死んじゃうよ?」


 その通りだ。その通りの未来が簡単に想像出来てしまった。

 冷や汗が一気に流れ出た。

 だから、“撃ち返さなければ”、そんな気持ちが表に出て『レディ・ポイズン』のトリガーに自然と指がかけられる。

 けどどうする? 走って逃げたから相手の姿は見えない。『レディ・ポイズン』の銃弾に角を器用に曲がってくれるシステムはない。

 どうする? このままだと……。


「あ」


 そうか、相手を殺す必要はないのか。

 オレは銃口を天井に向けた。撃つ。走りながら何発も。撃たれた天井は崩れて通路を塞いで。


「良しこれで!」


 ひとまずやつの銃弾は届かない。瓦礫の向こうから炸裂音が()こえてくるが突破するには時間がかかるはずだ。

 今の内に逃げる!

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