第106話 名前をお訊きしても?
◇
「エンリ殿を責める声は、まあ、あります」
工房に戻り、オレたちは話を訊いている。ダアトさんの工房に飛び込んできた総警庁の人の話をだ。
「しかしエンリ殿が既に故人である事、御家族の心労も考えられこれ以上の責を負わせるべきではないと言う声も大きい。
なによりエンリ殿は死の間際強く深く後悔し反省していたでしょうから。
説教とは対象が後悔と反省をしていない場合に限り対象を本当に想っている人物が行うモノですしね。
それでもエンリ殿を口撃する輩はいるでしょうが。中には赤の他人にも拘らず嫌味と意見をはき違える者もいる。
これらも無視は出来ませんが必要以上に重く受け止める事もしません。
害でしかありませんから」
割と厳しい事をするっと言ったな……。
「まあそれはそれとして、今回はこれを届けに参ったのです。
糸掛殿と石見殿への賞金です」
そう言って、小切手をオレたちに渡す。
「デジタルにするか現金にするかはご自由に。銀行の方でお受けします」
記された内容を見て、ちょっと驚くオレ。
「オレが五百万エール?」
一人でだ。なんとオレ一人に半額が舞い込む事態に。
「いや止めたのはみんなですしぴったり分けて――」
「撮られていた映像は拝見しました。
糸掛殿がいなければエンリ殿はグリムのままだった。最期に人に戻れたのは間違いなく糸掛殿の功績。
これは大きいと判断されました」
続けて総警庁の人は。
「二百万エールは軍神ディアン殿、百万エールはグリムの魂を仕留めた石見殿に。
残りは参戦した者で分けられます」
良いのかなあ、こんな大金。カノは貰っとけ、んで分けろと言っているが。
まあ? みんなが良いと言うなら? 貰うけど。
「最後に一つ。軍神ディアン殿より伝言です。
最悪と言うモノは思わぬところから顔を出す。
考えよ。
正義が暴力にならぬよう。
忘れるな。
正義の共有こそ平和に繋がるが必要以上の団結は気味悪がられると言う事を。
初めにこれが正義だと決めた者が悪であったならと思考せよ。
世に流れる正義に従うのではなく、自らにとっての正義とはなにか、常に思い続けるのだ。
余たちもそうして活きている。
己が最悪にならぬようにな。
では縁があればまたどこかで。
だそうです。
ではこれで。さようなら」
そう言うと総警庁の人は工房を後にした。後にしようとした。
しかしそれを呼び止める声が。
「あの!」
オレに呼び止められて総警庁の人は大階段の手前で振り返る。
「名前をお訊きしても?」
「ああ、名乗っていませんでしたね。
ケゾラです。
よろしくお願いします」
名を知った。これでなにが変わるのか? なんとなく繋がりが強くなった気がする。
それだけの話だが、それだけでも良いのだ。
こうやってオレたちは繋がりを広げていく。
きっと人の輪と言うモノはいざと言う時、力になるだろう。
だから、些細な事だがこれで良いのだ。




