第105話 ……あり……が……と
エンリの周囲が煌めきだす。
先に炸裂したオレの銃弾の欠片たちがオレの意志を受けて、魔力を受けて輝いている。
オレに唯一可能な魔法、魔力吸収。
そいつを使って、歪ませて、エンリの魂を引き寄せろ!
それがオレに出来る事なのだから!
煌めきがエンリの体に集中する。体を侵食し、貫き、さながら超々小型の太陽のように煌めいて。
「ア――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ!」
叫ぶエンリ。
轟音、煌めきの爆散。
エンリの体から追い出され空へと昇っていく、グリム。
「火よ!」
即座に放たれる石見の魔法。グリムの魂が火に包まれ、消えた。
倒れるエンリを抱え込む御両親。
エンリのバトルオーラは消え去り、獣人化も解けている。
ではエンリはどうなった? 彼女の魂は?
「……」
エンリの瞼はわずかに開かれている。虚ろに。どこを見ているかも不明だ。
けれど。
エンリの震える腕が、自身を抱える御両親の手に触れる。
石見が駆け寄りエンリの胸元に耳を寄せた。寄せて、
「治れ!」
治癒の魔法をかけ始める。
ゆっくりと、小さく唇を動かすエンリ。
かすれた声が漏れ訊こえた。
「……あり……が……と」
それは誰に、なにに対してか。
エンリが発した言葉はそれだけで。
瞼が、ゆっくりと落ちていく。
石見は魔法をかけ続けている。
なのに、エンリの瞼は完全に落ちて、御両親に触れていた手はそのままに、唇は小さく微笑んでいて。
そうしてエンリは、この世を去った――
魔法を止める石見。
唇を噛むオレ。
「かつて」
みなが静まる中、口を開くのは軍神ディアンだ。
「グリムとなった者が人に戻ったと言う例はない。
これは稀有なケースとなるだろう。
エンリは人として逝った。人として親を護り、逝けたのだ。
結果を誇れと言う気はないが、エンリが最期に笑えたのは確か。
それを、決して忘れるな」
そう言うと子であるヴィヴィを伴い早々に姿を消した。
気遣われた、かな?
でも……魂、戻せなかった……。
石見の手がオレの背に触れた。
触れて、少しだけ押すように力が込められて。
……悔しい。ちくしょう……。
上を向く。目頭が熱い。エンリが死んだ悲しみか、自身の未熟さにか。両方か。
もっと上を目指さねば。
助けたい人を助けたい時に助けられるように。
弱さを認め、鍛え、強くあれよ、オレ。




