6話 『バリア』の使い方
「ぐあああああああああっ!! ふ、札、札を……」
「情けないな。まだ始まったばっかりだぞ」
Cの文字が刻まれた札を割る1人の受験者とそれを見て、呆れた顔をする相沢。
自動回復が機能しているお蔭で即死にはならないが、中途半端なステータスだとあっという間にオークに捕まってしまうという事が受験者の脚を止めさせる。
そもそもDクラスのモンスターのいるダンジョンなんて相沢が自慢するほどの難易度。
俺からすれば1人で突っ込むだけで、勇気がある。
『――緊急転送』
札が折られるとどこからか流れたアナウンスと共に受験者の姿が消えた。
札自体にその効果があるというよりは札を通じて情報を把握して遠距離で個人をスキルで脱出させているって感じかな?
「試験官とか野宮とかっていう女とか……あれは異常過ぎたがこの程度のモンスター俺の敵じゃないんだよ!『ギガントスタンプ』!!」
相沢はたまったフラストレーションを爆発させるようにしてオーク達を巨大な手で押し潰しにかかる。
流石に一発とはいかないものの、2発も決めればそれを受け止めたオークの腕はへし曲がり、地面に這いつくばる。
なんだかんだ言って相沢もこの中じゃ強い方なんだよな。
「Cグループの奴ら! 俺に続けっ!! 這いつくばった奴らならお前らでも殺せるだろ!!」
大声で呼び掛ける相沢に答える様に受験生はまず地面に這いつくばるオークを殺し始める。
その光景はまるでハイエナ。だけど、この試験を乗り越えるにはこういった連携もなしじゃなさそう。
俺は這いつくばってる相手とは相性が悪いから奥の方で狩りをさせてもらうけどね。
「『バリア』」
「おいあいつ、攻撃力1の奴だろ? 防御スキルがあるからって大丈夫なのか?」
「最悪札があるから何とかなるだろ。あんな雑魚は放っといて数を稼ぐぞ」
奥に進む俺を馬鹿にする受験者達。
2人で綺麗な連携を決めて確実に倒していくところを見るとBグループっぽくあるな。
ただ、このオークの量に無難な火力。あの人達も遅かれ早かれ札を折る事にはなるだろう。
「『バリア』シリーズ①『ワイド』」
俺はこのフロアの右端まで移動すると、バリアの形を変化させて防御範囲を広くした。
そしてオークの攻撃が一切通らない事を確認すると、これまで俺がレベル上げをしていたのと同じ方法、パターンを作る。
「圧殺。結局これが消費MPが1番低くて、自分の定めたモンスターだけを確実に殺せるから都合がいいんだよな」
襲ってくるオークを壁際まで追い込んでそのまま、壁と『バリア』の間に挟んで圧殺。
『バリア』の範囲的に1度で最大5匹は殺せる。オークの数は数千以上いるだろうから、1時間ずっとこれを繰り返してても他の人が殺す分が無くなるって事はないだろう。
割と1人でレベル上げしてる時は、狩るモンスターがいなくなって……よく沸き待ちしてたもんだ。
「『ギガントスタンプ』!! 『ギガントスタンプ』!! はぁはぁはぁ、まだ10分も経ってないっていうのに……。くそ、数が多すぎる!」
俺は圧殺作業をしながら相沢の様子を見た。
残念ながらもう息が乱れている。勢いは最初だけだったか……。
「体力の配分が下手だなぁ、狩りは常に体力に余裕を残しておかないと……『ティアドロ――』」
「藤さん、それは他の受験者の迷惑になるから控えて!」
「お前俺のオカンに似てきたな……。まぁいいや、『アイシクルニードル』」
友人、確か名前は林だったかな?
適性試験で使ったスキルを藤に使わせないのは多分使わなくても合格出来るだけの実力があると信じているから。
ぱっと見た印象よりも深い信頼関係で2人は繋がっているのかもしれない。
「作戦通りあなた達突破力があるから私と正面から突っ込んで。範囲攻撃を扱える後衛攻撃組は隙を見て合図、それからスキルを使って頂戴。本来一発で落とせない威力でも私達がHPを削るから自信をもって放つの。それで回復担当組は攻撃後衛組の真ん中から出ない事。あくまでこれはグループ試験。全然止めを刺せなくてもいいからとにかく仲間を回復することにだけ徹して。それじゃあ行くわよ!!」
「「はい」」
まるで軍隊の様に指揮を執る野宮。
なんか1時間立たなくても結果は見えてる気がするけど……。
まぁいいや。俺は俺の仕事をこなそう。あ、これで30体殺したな。
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