4話 ステータス
「次、加護綾斗さん」
「はい」
相沢の番が終わると受験者達は口答えすることなく検査を進めていた。
何も知らずに見ていたらただ大人しくていい子だと思われるかもしれないが、一連の流れを見ていると試験官の実力を思い知って気圧されているようにしか見えない。
それは俺も例外ではなく、緊張とそれで吐きそうだ。
「それでは……【ビジュアリゼーション】」
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名前:加護綾斗
レベル:50
HP:820
MP:450
攻撃力:1
魔法攻撃力:1
防御力:500
魔法防御力:480
スキル:認証後表示可能
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「50レベル……。いえそれ以上に、攻撃力が【1】?」
今までクールな表情で感情を表に出していなかった試験官は鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情を見せる。
会場にいる受験生もざわつき始め、中にはクスクスと笑っている奴らもいる。
「え、えっと、そ、それではあなたの中で1番の攻撃スキルを見せてください。狙いは私で構いません」
「はい。『バリア』」
嘲笑の的になるのは久しぶりだ。
だけど、俺はもうこんな奴らには屈さない。
「え? そのあなたそれは……」
「えーっと、俺の最強の攻撃スキルはこの『バリア』になります」
「は? ……。あはははははっ! 面白い冗談ですね! 防御スキルで攻撃ですか? 分かりました。あなたはCグループになります。席に戻ってください」
失礼な笑い声が会場に響き渡ると、それに釣られるように至る所で笑い声が湧き上がる。
なんとなくこうなる事は分かってはいたけど、やっぱり辛いわ。
札も貰ったしさっさと席に戻ろ。
「では次の方、藤さん」
「はーい」
俺とすれ違った俺の席の後ろの人、藤はだるそうに返事をしながらも真剣な目つきで試験官の元へ。
相沢に対してのあの態度、きっと相当な実力者なんだろ――
「攻撃力1に攻撃が『バリア』。そんでもって只ならないその顔つき。……イレギュラーな存在程恐ろしい。そんな事も分からないのかな、あの試験官」
「え?」
「何を話しているんですか? 早くこちらに来て下さい」
「はいはいすみませんすみません」
すれ違いざまに藤が放った言葉。俺をフォローしたいからじゃなく、自分はお前に油断はしないと釘を刺されたように俺は感じた。
「【ビジュアリゼーション】」
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名前:藤幸太郎
レベル:62
HP:800
MP:500
攻撃力:1300
魔法攻撃力:1520
防御力:530
魔法防御力:500
スキル:認証後表示可能
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藤のステータスが表示された。
そしてその数値の高さに今まで笑っていた受験生達の顔が引き攣る。
毎日毎日学校にも行かずコツコツレベルを上げていた俺よりも高いレベル。それに4桁の攻撃力。
この歳でこれは……もしかして藤も学校に行かずにレベル上げをしてたのか、と疑ってしまう程。
そもそもそれですらこのレベルに至るのは難しいぞ。
「……それではあなたの中で1番の攻撃スキルを見せてください。狙いは私で構いません」
「ふーん。これでも、構わないって言うんだ。洞察力とレベルは比例していないんかな?」
「……いいから早くしてください」
「はいはい。……『ティアドロップ』」
藤の手を翳した手から落ちる一滴。
それが地面に触れようとするのを防ぐように試験官は両手で受け止める。
すると耳を劈く大きな破裂音が鳴り響き、試験官を中心に水しぶきと衝撃波が俺のいる辺りまで届いた。
衝撃波は試験官を通じた事、更にはここまで距離がある事で弱まっている筈なのに身体の芯から震わせられているように感じるレベル。直接喰らえばどうなってしまうのか恐ろしい。
それにこの衝撃波と飛んできた水しぶきはその一粒一粒がゴム鉄砲程の威力があった。
多分試験官が的じゃなかったらこれも相当な威力になっていただろう。まるで爆弾だな。
「ふぅ。あなたはBグループになります。席に戻ってください」
「はーい。あ、試験官さんシャツが透けてるから隠した方がいいですよ」
「……構いませんよ、これくら――」
「『炎舞斧撃』」
どこらともなく試験官を襲う炎攻撃。
試験官がその攻撃を受け止め、透けていたシャツが瞬く間に乾くと紺色の下着が見えなくなる。
「こちらからお呼びしてからの検査になるのですが――」
「男子の変な視線を受けたままなのは同じ女性として可哀想だったのでつい」
「……心遣いありがとうございます。折角ですのであなたから、えーっと野宮さんですね。【ビジュアリゼーション】」
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名前:野宮朱音
レベル:65
HP:880
MP:320
攻撃力:1730
魔法攻撃力:1020
防御力:750
魔法防御力:300
スキル:認証後表示可能
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「あなたAグループになります。席にお戻りください」
「はい」
野宮、俺と同じ学校で俺の名前を知っていた女性は藤を一瞥して席に戻る。
そのステータスと只ならぬ雰囲気に受験生達は開いた口が塞がらないのだった。
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