2話 入学試験開始
入学試験は3部構成。
まず筆記、それから適性検査、実戦試験。
あの日からどれだけレベルを上げても何故か攻撃力が1から上昇しなかった俺にとってステータスを見られる適性検査は不利。
内容は分からないけど、実戦試験にしても攻撃スキルを持ち合わせていない俺は不利な可能性がある。
という事は俺がプロの探索者を目指す他の生徒と差をつけるにはこの筆記試験しかないと思ってたんだけど……。
「終わった。過去問とここまで違うなんて事あるのかよ。1個のスキルについて掘り下げんの多すぎるよ……。俺、『バリア』シリーズしか持ってないってのに」
通常の科目は問題無かったけど、『探索者知識』のテストがあんまりにマイナーな内容で歯が立たなかった。
折角寝ずに勉強したんだけどなぁ。
「次は適性検査になります。10分後にステータスチェックをさせて頂きますので、お手洗いなどを済ませて席に戻って来てください。特別な理由なく遅刻した場合、不合格となりますのでご注意をお願いします。それでは解散してください」
試験官の女性が試験会場から出て行くと筆記試験から解放された受験生達は知り合いなのかその場で仲良くなった相手なのか、とにかく楽しそうにざわつき始めた。
勿論引きこもりだった俺にはそんな相手はいない。それに誰かに話し掛けるつもりもない。俺の目標の達成に友達とか協力とかそんなものは必要はない。
「あー、全くどいつもこいつももう受かったような顔だな。今の筆記試験なんて形式だけのもんだろ?本番はこれから。気の抜けた奴は実戦試験で怪我してくぞ。あいつとか見るからに雑魚って感じなのになんであんな余裕そうなんだ?」
「藤君、そんな風に指差したらまずいって」
俺の席の真後ろの男がでかい声で堂々と悪口を言い始めた。
それに注意する友達がいるけど、そんなフォローはもう遅い。
指を指された側の男は、明らかに怒ってゆっくりと近づいてくる。
よりにもよって指を差した相手は見るからに不良といった風貌。試験会場で暴力沙汰なんて最悪だぞ。
「おいお前、今俺の事を雑魚って言ったか?」
「ああ。間違ってないだろ?」
「てめえ……。俺は既にDクラスのモンスターの居るフロアへの侵入を許可されているエリート。ここを受験したのはあくまで契約したい事務所がここを卒業したらとか変な条件言い出しやがったからで……。いいか、俺はお前みたいなひょろい一般人とは違うんだよ」
「Dクラスねえ……。そんな風には見えないけど」
「俺が嘘を言ってるとでも? いいだろう。そんなに俺の力が信じられないのなら見せてやる。どうやらこの試験会場、ダンジョン学校の校舎内ではスキルが扱えるみたいだからな」
不良みたいな見た目の男は右手を振り上げて拳を握った。
いくらなんでも短気過ぎるだろ。
それにスキルを使えるって……そんなのダンジョン学校の紹介資料には記載されてなかったぞ。
もし生徒が悪意を持ってスキルを使ったら……そんな無秩序なところだったのかここは。
でもそれなら『バリア』で自衛出来るな。
「喰らえ、『ギガントスタンプ――』」
2メートル位まで膨らんだ不良男の拳が降り注がれようとし、俺が『バリア』を発動しようとしたその時だった。
「スキルが使える事もステータスが反映されているのもここにいる全員が気付いてるわ。でもだからって暴れようとするのはマナー以前の問題。こっちの男の人の口が悪いのは間違いないけど……あなた、幼稚過ぎね」
拳は1人の女性の片腕で簡単に受け止められた。
着ている制服は俺と同じもの。同じ学校の生徒にこんな強い人がいたのか。
「う、ぐぐ。動かない、だと?」
「Dクラスのモンスターがいるフロアにあなたは入る許可をもらっただけ。そこを常時狩場にしている人達からしたらまだまだひよっこ。そんなんで事務所に所属なんて出来るわけないわ。今あなたの攻撃を受け止めている私だってまだだっていうのに」
「どんな許可をもらうとか、何レベルとか、そういった基準だけじゃあ普通雇用契約してもらえない。まぁ勝手に噂になっちまったほどの天才少女なら話は別だけど」
「……だから実績、知名度、肩書、そんなものを得る為だけに受験するのよ。世に出ていないだけの並外れた実力を持った人達がね」
女性の言葉と共に試験会場の大半の人間が黙った。
きっと自分は地元でそれなりだったから受かる、ここにいるのはそういう甘い考えの奴が殆どなのだろう。
中学生3年生なんだからそれぐらいが普通だとは思うけど、この女性からすればそんな普通じゃダンジョン学校に『受かる』のは無理という認識なのかもしれない。
「……くそっ。元はと言えばお前が悪口なんか言ったのが悪いんだからな。気を付けろ」
「へーい」
不良男は最高にカッコ悪い言葉を吐き捨ててその場を去った。
ふぅ、なんにせよ俺の席まで被害に遭う事が無くて良かった。
「こんな事私が言う事じゃないけれど言動には気を付けなさい。試験官はその人の何を見て採点しているか分からないから」
「この人の言う通りだよ! 僕もう冷や汗が止まらなくて……」
「はいはいごめんごめん気を付けますよ」
悪口を言い放った男は適当に謝ると不貞腐れてしまった。
友達の人大変だな。
「加護君も大丈夫だった?」
「は、はい。大丈夫でした」
「そう、なら良かった。じゃ、お互い頑張りましょう。試験はまだ始まったばかりだから」
「そ、そうですね。……ん? なんで俺の名前知ってるんだ?」
呟いた疑問が届く前に女の人は颯爽とその場から去ってしまったのだった。
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