1話 『バリア』取得
「玲華っ!」
「お兄、ちゃん? なんで? ここはお兄ちゃんが来ていい場所じゃないでしょ!?」
ダンジョン。
30年前唐突に現れたそれは新しい資源を日本にもたらし、生活を豊かにした。
だがそれと共に誕生したダンジョンで適用されるステータスカースト。
俺は『攻撃力1』って事で中学の奴らに虐めを受けて、ずっと保健室登校。
ただ、それでも俺は玲華の兄貴。
俺と違って優秀な妹がダンジョンでピンチなんて耳に入ったら自分の身を犠牲にしてでも助けに行くだろ、そりゃ。
「私は大丈夫だからいつもみたいに家で引き籠って――」
「ぶもおおおおおおおおおおおおっ!!」
「危ないっ!!」
二足歩行の牛型モンスターミノタウロスが右手に持っていた斧を振り下ろす。
俺は慌てて妹とミノタウロスの間に入る。
「ぐああああああああああああああっ!!」
「ば、馬鹿っ!! なんで……なんでなんでなんでなんで! なんで? 私ずっとお兄ちゃんの事馬鹿にしてたのに」
「妹だから……当たり前だろ」
斧によって背中を切り裂かれた。
切られた場所が痛い熱い。
でもなんとか、なんとか玲華をここから逃がさないと……。玲華を守りながらもっと時間を稼がないと……。
「お兄ちゃん! 死んだらただじゃおかないわよっ! もう口聞いてあげないんだから!」
「それでもいい……。それより早く、逃げ――」
「ぶもおおおっ!!」
再びミノタウロスが斧を振り上げた。
このままじゃ……。くそ。俺はこんな時ですら……。ああ、立派な兄貴って奴になるのはなんて難しいんだろ。守って、やりたかったな。
『瀕死状態、レベル10、攻撃力1、守護意識向上、以上の条件を満たしスキル【バリア】を取得しました。初回能力確認の為スキルを自動行使致します』
自分の変化を告げるアナウンスが頭に流れた。
ダンジョンにはゲームに近いシステムが採用されていて、ステータス、アイテム、このアナウンス、到るところで普通の生活とは異なった点がある。
アナウンスが流れた事があったのは今までだとレベルアップの時くらいで、スキルの取得で流れたのは初めてだ。
――キンッ!!
「ぶもっ!?」
「これが、俺のスキル?」
俺と玲華を覆う水色の『バリア』はミノタウロスの斧を弾き返す。
持続性のスキルらしく、それだけではバリアは消えない。
ミノタウロスは何度も何度もバリアを斧で攻撃するが、ヒビの1つも入らない。
極力人と関わりたくないと思っている引きこもりの俺にはお誂え向きなスキルだな。
「ぶがぁ、ぶが、ぶ、も。……。ぶふぅ」
「……諦め、た?」
ミノタウロスは乱れた息を整えると俺達に背を向けて歩き始めた。
玲華はそれを見て呟くと、ぽたぽたと涙を溢しながら体を震わせる。
「お兄ちゃん、生きてるよね? あんな無茶するお兄ちゃんなんか、嫌い。だから――」
「嫌いか……。知ってるよそんなの。でも俺は兄貴なんだ。いつか玲華を、胸張って守ってやれるくらいになるから……だからその時はせめて普通位くらいになって欲し、いな」
それを言い終わると俺の意識は段々と遠のき、玲華が何を言っても届く事はなかったのだった。
◇
『本日のゲストは天才中学生探索者の加護玲華さんです!』
『よろしくお願いします!』
テレビを点けるとそこには俺の知らない姿の妹、玲華が映っていた。
あれ以来玲華は本当に俺と一切口を聞かなくなってしまい、更には元々天才肌だった事もあってか探索者として早くから大手事務所からスカウトを受け、芸能活動何かも始めたもんだから結局不登校のままこの1年を過ごした俺は会う機会すら殆ど無い状態に陥っていた。
「綾斗、そろそろ時間だ。準備は大丈夫か?」
「ああ。大丈夫だよ父さん」
「……。ダンジョン学校に通う事が全てではないし、通信制の高校、それに俺の父さんの伝手で中卒でも仕事は……」
「俺は玲華を守れる存在になりたい。だから絶対受かる。それでもって、高校は絶対リタイアしない」
「……そうか。一応お守りを買っておいた。気休めになるかどうか分からんが、持っていくといい」
「ありがとう父さん。それじゃあ行ってきます」
俺は不登校の俺の面倒を見てくれた父さんにお礼を告げると、ダンジョンで玲華を守ってやる、つまりは玲華と肩を並べられる存在になる為に、日本で唯一ダンジョンを敷地内に有し探索者としての育成カリキュラムを取り入れているダンジョン学校への入学試験会場へと脚を運ばせるのだった。
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