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もうお家へ帰りたい!?

 人間には三大欲求というものがあるらしい。


大体の者は一生をそれに振り回されて過ごすことになる。哀れな連中。


私は眠らずとも生きていける。性欲は感じるが十分理性的に対処可能。

食事も水と光さえあれば、まあ・・。ダイジョブ。冷静だ・・・まだ物を考えられる。大丈夫・・・・!


それに引き換え魔族というのは、何たる醜さ。体を血塗れにし、味わうことなく犠牲者をただひたすらに喰らい貪るあの様は存在するに値しない。


だが生きることは、食べることである。そうでしょ?食事の楽しみなくて何のための命?。

水と光で味気なく過ごすくらいなら死んだほうがまし。


そういった意味じゃ今この船は奴らにとって正に楽園ね。食べ放題だもの。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

江歴10XX年、この世に存在するダンジョンという未知は粗方、探索され尽くしてしまった。

かつては種族的なアドバンテージがあるものや、特殊な才能を授かった者は、富や栄光を求めて皆冒険者になった。


しかし、ダンジョンがあってこその冒険者であり、そこで得られる常識を一切無視すようなアイテムや人生を何回も繰り返して使ったとしてもお釣りがくるような財宝、等のロマンのほとんどが一部の者や組織に渡りきると有能な者は冒険者をやめ権力者の下でその能力を活かし生きていくようになる。



それ以外の者は今更他のことも出来ず、またやる気もなくギルドからの依頼をこなして日銭を稼ぐ何でも屋になってしまった。





「昔はぁ、違ったのよぉ、そりゃねえ、

今と同じで汚い仕事もしたし、ギルドからの給金はもっと低かったわぁ。でもぉロマンがあったのよぉ。仲間同士の一体感?ダンジョンを攻略したときの達成感?全然ちがうのぉ。」


「そうじゃのー。よーわかるー。」


「わかってくれるぅ!?・・・いぇわかってないわぁ。・・ほんとにわかってるのぉ?」


場末の酒場にエルフとサキュバスがいた。昼間であり、客は少なく彼女たちの声はよく響いている。


かつて、この町の付近でダンジョン探索が盛んに行われていた時は珍しくもない組み合わせであったが、元々種族的な性格が、かけ離れているため目的を同じくしてパーティーを組まない限り両者が一緒になることはまずない。


「そんなことないぞー。よーわかるー・・・むぐむぐ。」


面倒臭そうに、相槌をうちながら、肉料理をぱくつくエルフ。種族的に長命なので実年齢は不明だが人間的にみれば12、3くらいのようだ。尖った耳に細く引き締まった体は、正に彼女らの特徴そのものだが

一つ違いがあった。髪が黒いのである。その髪は混じりっけのない黒さで見るものが吸い込まれそうになような純度だった。


「もぉ、お肉なんか食べてないで、話を聞いて!!それか私を食べて!!」


泥酔して管をまくサキュバスは、態度でいえば醜いことこの上なかったが、このような状態でも持って生まれた気品のようなものが漂い、酒精で上気した表情も相まって怪しい美しさを放っていた。


「聞いておるぞー。肉は食べるが、サキュバスはなんぞ誰が食うか。」


「へぇ?じゃあ私が食べるわ。」


「何言って・・・・おる・・・・・・・・・・・・ん!?・・痺・・れ・・!」


エルフは突然椅子から崩れ落ちそうになったが、それをサキュバスが先程までの酔いなどまるでなかったように、素早く抱き止めてその長耳を舌でチロチロと舐めながら慈愛に満ちた表情をうかべていた。


「シィ...ナ...盛・・っ・・た・な・!?」


「うふん♡痺れ薬と私の体液をましましに!隠し味はあ・い・じょ・お♡」


「どう・・い・・つも・・!?」


「あん♡マーシャ怒った顔も可愛い・・!」


シィナと呼ばれたサキュバスは、口調こそふざけていたが自分の腕の中を見つめる彼女の瞳は狂気に満ち始めていた。


「・・はぁっ・・ねぇ・・好きよ。」


「・・・好きなの!」


「・・・・どうしようもないの。」


「こういう騙し討ちみたいの大嫌いなの、知ってるわ。・・だから今日は私の全てを賭けてあなたを堕とす。」



黒髪のエルフ、マーシャはシィナのいつもとあまりにかけ離れた様子にあっけにとられていた。今までシィナは自分が死にかけた時でさえ、こんな風に真剣に物を言ったのを見たことはなかったのである。


(まずい!まずい!まずい!動け!動け!動け!シィナの奴本気じゃ!我を隷属化させにきとる!)


マーシャは相手を睨むと解毒魔法を唱えようと唇を動かした。


「精霊・・よ・・!!んんっ・・!!!」


しかし、マーシャの小さく開いた唇にそっと重ねるようなキスに魔法は中断されてしまった。


ちゅく・・ちゅ・・・はぁっ・・・ちゅ・・・・ちゅく・・はぁっ・・


粘液の音と熱く空気を吐く音だけがこの場を支配した。


「ふふ・・・美味し♡・・聞こえてるぅ?・・もう動けない?・・・・私とこんなにちゅう♡したら普通じゃ頭おかしくなっちゃうもんね?」


マーシャの肌は赤く充血し、汗でしっとりと潤みをおび始め、口からは、だらしなく涎を垂らしながら息を苦しそうに荒くさせている。そして先程までは怒りに満ちていた瞳が、いつしか自分の最愛の人を見つめるものになっていた。


「シィナ・・好き・・・・・」そう言うとマーシャは弱弱しく自分の右手をシィナの頬へのばした。


シィナは目を瞠り、思わず彼女を抱きしめる腕に力がこもった。


「わかってくれたのっ!?マーシャっ!!」


嬉しそうにシィナは自分に向けてのばされる手を掴もうとした。


しかし、そこで力尽きてしまったのかマーシャの右手はダランと下がった。


そしてそのまま鋭く伸びた爪で自分の左腕を全力をもって深く切り、間髪入れずにそこへ指を突っ込むと、血に塗れた丸い粒を掻き出し床へ落した。


「何を!?」


シィナはその場を飛びのこうとしたが、床に落ちた粒から一瞬にして緑色の蔦が伸びると二人をそれぞれ弾き飛ばした。


蔦はそのまま成長を続け二人を分断する壁となった。



「マアアアアーーーーーーシィャーーーーーアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーー!!!!!」

壁の向こうからは喉が涸れんばかりの絶叫が聞こえてくる。


(今のうちに解毒魔法を!)

「精霊・・・よ・・・偉大なる・・・叡智をもってして・・・我が穢れを・・・癒せ」


短縮呪文を唱えると、先程まで自分を蝕んでいた痺れと甘い疼きが消えた。


(たく・・・どうしたっていうんじゃ・・とりあえず逃げよ・・・)


そこまで思った時、マーシャの周りから人の気配が遠のくとともに真っ黒の霧があたりに立ち込めだした


「これは・・・・。」


嫌な予感とともに近くの扉を開くとそこには、見慣れた街の景色はなく屋敷の古風なホールが広がっていた。


「あー・・・・駄目なやつじゃあ・・やべえやつじゃ」
















  














































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