救出
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「罠にハマるのが好きだねぇ。ま、俺もハマりかけたから人のこと言えないかな」
どこかからそんな声が聞こえてきたな、と思ったときに目の前に青い炎のようなものが出現した。
ひとつ見えたと思っていたら、一個二個と数が次々に増え、それらが集結した瞬間、八つの大きなふさふさとした尻尾と小さな耳を生やした玉房の姿が見えた。
「ほら、そんなところにハマってないでこっちおいでよ」
そう言われて差し出された手は何故か黒く染まっている。
「その手、どうしたんだ?」
「ん?あぁ、これ。油断してさ、今の翠みたいに飲まれちゃったんだよねぇ。ま、翠から力貰えば治るけどこれ」
玉房は何でもないようにその手をひらひらと振ったあと、さ迷わせていた私の手を掴んだ。
その瞬間、黒く染まっていた手がいっきに元の色へと戻った。
それに意識が向いている間に玉房は私のことを引っ張り上げ、手を掴んでいない方の手で私の足に触れた。
すると、先程の玉房の手のように黒くなっていた足がいっきに元に戻った。
「私も飲まれてたのか…」
「思いっきりね。はい、これで元通り。全くさぁ、素直に試験官に会わせてくれないとか性格悪いよね。人の傷抉ることばっかりしてくるし、早く終わらせたいよ」
疲れたように呟く玉房の様子から見るに、ここに来る間何かあったのだろう。
それも玉房が飲まれるほどの何かが。
「そうだな」
「今の時間も分からないしなぁ。せめて今が何時でタイムリミットまでどれくらいなのか教えて欲しいよね」
それより、先から視界の真ん中にゆらゆらと揺れるものが気になってしかたない。
あと頭の上で動いている耳も。
あれは本物だろうか。
「龍流は何とか我に返れたみたいだし、雀炎も犬縁と鵜羽のお陰で大丈夫そうだな。あとは皆揃って向かうだけなんだけど、ここからだと少し遠いかも」
話している間も動き続けてるので、本物に違いない。
「ちょっと歩こうか、翠」
「え、あぁ…」
それに気を取られて生返事を返すと、首を横に傾けられた。
「どうした?何かあった?」
「いや、その、耳と尻尾が…」
誤魔化すことができず、そのまま答えると玉房はあぁ、と言いそれらを仕舞ってしまった。
残念、もっと見ていたかったのに。
「そんな残念そうな顔しないでよ。本来の姿を見せるって結構恥ずかしいことで、おいそれと見せるものじゃないんだよ」
「そうなのか、知らなかった…」
「裸見せてるのと同じ感覚だからね」
「それは嫌だな」
でしょ、と言い玉房は私の手を引いて歩き出した。
歩きながら掴まれている手首を見た。
時間として少ししか離れていなかったはずなのに、何故こんなに玉房が隣にいると安心するのだろう。
任務で一緒にいることが増え、それが当たり前になっていたからだろうか。
でも、それならば鵜羽だって同じはずなのに、鵜羽に同じ感情は抱いたことはない。
ということはどういうことなのだろうか。
この間の胸のざわつきと言い、一緒にいて安堵するなんて私は一体どうしたのだろう。
まさか、玉房のことを好きになったとか言わないよな?




