実務試験開始
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今年の実務試験は学園の中にあるゲートを潜り、異空間で執り行われるそうだ。
試験官に続き、生徒が次々とゲートを潜ればそこは薄暗い山の中であった。
隣同士が何とか見える薄暗さで、木々が生い茂り空が所々にしか見えない。
こんな所で何をさせるつもりだろうか。
「これから皆さんに行っていただく実務試験は、こちらです」
そう言って試験官がポケットから取り出したのはとあるキーホルダーだった。
黄色とピンクと青の糸だろうか。
それらが編み込まれ、小さな鈴もついている。
「これを探し出し制限時間内に試験官まで届けられれば合格です。制限時間は本日の夜9時まで。その時間までに届けられなかった場合は失格です。良いですね?」
あんな対象物が小さくて、こんな薄暗い山の中でそれを探すのか。
これはなかなか難しそうだ。
「では、実務試験を開始します。始め!」
開始の合図と共に皆が走り出したというのに、玉房、鵜羽、雀炎、犬縁、龍流はそこから微動だにしなかった。
雀炎に関しては犬縁に止められていたと言った方が正しい。
「……これはどういうことかな?龍流」
「何がだ」
呆れた口調で玉房がそう言い出したので何のことだと思ってそちらを見てみると、何やら光る糸のようなものが周辺を囲っている。
もしこれに気付かず突き進んでいたら糸に間違いなくぶつかるのだが、これはただの糸なのだろうか。
試しに触ろうとするも玉房に止められた。
「いや、この糸とか今にも攻撃してきそうな龍とか何かなと思っていてね」
真上を見てみれば確かに龍らしきものがこちらを見下ろしているのが見える。
まだ何もしていないが、いつどんなタイミングで動き出すか分かりかねる。
「さぁな」
「えぇ、まさか俺と戦いたいがためにやったとか?」
「だとしたらどうする」
「勝負とか俺どうでも良いよ。そんなことより早く探しに行こうよ。制限時間もあるしさ」
「逃げんのか?玉房」
「そう思っていただいて結構でぇす」
玉房は私の腕を掴むと、先程私が触ろうとしていた糸に触れたかと思えば思い切り握り潰した。
その瞬間、硝子が割れたような音がした。
その音が段々大きくなっていき、ついには周りにあった空間の壁も割れたような音がする。
「うわぁ、何かすげぇことになってる!」
「お前は少し落ち着け、めんどくせぇから」
前のめりでその光景を見る雀炎に犬縁は呆れながら首根っこを掴み、地面にいたマロを片手で担ぎ上げた。
次の瞬間。
「何だ、ここは」
眩しいほどの光りに辺りが包まれたかと思うと、真っ白い空間に辿り着いた。
ここは一体何処だろうとキョロキョロしていると、隣にいた玉房が薄く笑った。
「………大丈夫だよ。さっきまでの場所はあくまでスタート地点。ここに辿り着く事が第1ステップだからね。そのことにどれだけの人が気付いたかな」
「さっぱり意味が分からないんだが…」
「翠はそれで良いんだよ」
良くないだろうと思っていると、龍流が龍を手の上に乗せ元に戻し溜め息を吐いていた。
「あの空間にストラップはねぇよ。初めからな。あの試験官が持っていたのはダミーに過ぎねぇ」




