さようなら、愛おしい人
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そんなの、私だって好きだったさ。
けど、そんなこと今言われたって、私は。
「……私は『真央』じゃ、ない」
「知ってるよ。知ってるけど、言いたくなったから言ったの」
そう言った颯太の表情明るく、どこか昔の颯太に戻ったように見えた。
「まだ完全に向き合うことはできないかもしれないけどさ、向き合う努力はしていこうかな。このままぐずぐずしてたら2人に怒られそうだし」
「そうしてくれ」
掴まれていた手を離そうにも離してくれず、颯太を睨めば微笑ましく笑っている。
「ホントにそっくりだよね、君」
「もうそれは良いから離してくれ」
「えぇ、ケチだね。あ、ねぇねぇ、最後にお願いがあるんだけど」
嫌な予感がする。
昔からこういう口調で言われるときって言い頼まれごとじゃない。
「な、何だよ」
警戒心むき出して問いかければ、形の良い唇を上げて言った。
「『颯太』って呼んでくれない?」
「………」
「最後にそれだけお願い」
手を離し、顔の前で拝むように頼まれ、私は悩みに悩んだ結果、呼ぶことにした。
私にとっても颯太にとってもこれが本当の最期になると考えたとき、私も呼びたくなったのだ。
素直に気持ちを伝えてくれたこの男へ感謝を込め。
「『颯太』」
口には出せないけれど、大好きでした、私も貴方のことが。
気付けば好きになっていて、いつも貴方を目で追っていた気がする。
喧嘩をしていても、それも楽しくて私は幸せを感じていた。
その思いも伝えるつもりで呼べば、颯太の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「さようなら、愛おしい人。今度こそ幸せから逃げずに向き合い、私たちの分も幸せになってください」
泣いている目の前の人物には決して聞こえないように呟いた。




