幸せを願う
それから玉房と鵜羽は家から出て行ったようだ。
部屋の中に残された私は颯太と向き合って座っているが、一向に話そうとしない。
それは私も同じだが。
私から話した場合、墓穴を掘りそうで怖い。
颯太は私と違って頭が良いから少しでもきっかけに繋がる何かがあれば私が『真央』だとバレそうだ。
「……俺さ」
ようやく口を開いた颯太は窓の外に視線を向けながら、何でもないようにつぶやいた。
「あの2人に申し訳なかったって気持ちが強くてさ。新たな一歩とか踏み出す勇気がないんだよ」
「申し訳なかった?」
「そ。だって2人が亡くなったのって俺が原因だろ?」
「それは違うだろ」
確かにきっかけはそうかもしれないが、私や涼音は亡くなった原因が颯太のせいだなんて思ってはいない。
「違わないさ。きっと2人とも俺と関わらなければ、今だって生きてただろうし」
「ふざけるな!」
私は目の前にいる颯太の襟元を掴み上げた。
「関わらなければだと?そんなこと2人が望むわけないだろ!」
涼音だって颯太と関わらなければ良かったなどと言うはずがない。
言うとするのであれば、私と出会わなければ良かった、という方だろう。
幼馴染であった私を恨んでまで好きになった人物と出会わなければ良かったなんて涼音は絶対に思うわけがない。
私だってそうだ。
喧嘩は何度もしたし、馬鹿にだってされたが颯太と出会わなければ良かったなどと一度も思ったことなどない。
「たとえ最期の結末がそうなってしまったとしても、絶対に出会ったことを後悔するわけがない!」
「分からないだろう。2人が何を思っていたかなんて」
「いいや、分かる。2人は後悔なんかしてないし、この世を去ってもあんたのことを恨んでもいない。思うこととしたら、私たちの分も幸せになって欲しいとしか思わねぇよ」
「幸せだと?2人をこの世から消した原因の俺が幸せになれるわけがないだろう」
「原因じゃないって言ってるだろ!」
―ー――――ねぇ、真央。私ね、散々貴女のこと恨んでいたのにね、やっぱり、大好きなの。今まで本当にありがとう。
「………2人があんたに、望んでいるのは」
――――――この世界は私の知っている世界と大分違うみたいだけど、この世界でこんどこそ幸せになって。絶対に私のあとなんて追ってきたら許さないんだから。
「あんたの幸せだけだ。それなのに幸せから逃げようとするなよ。向き合えよ」
私も、そうだ。
恨んでいたはずの涼音が最期に私に望んだこと、それは私の幸せ。
まだ私にとっての幸せを見つけることが出来ていないのは颯太と同じ。
「………そういう所が好きなんだよね、真央のこと」
襟を掴んでいた手に颯太の手が重ねられた。
「相手を思いながら怒って泣いてさ。まっすぐに人のことを見るその瞳が大好きでね。あぁ、生きてるときにちゃんと伝えれば良かったって何度思ったことか」
何を言われているのか分からず、ただ颯太のことをまっすぐに見ていると普段隠されていたマスクを外して言った。
「真央のこと好きだってさ」




