日没までに
「20年前、好きだった女性が俺を助けるために一緒に階段から落ちて亡くなった。それだって俺に好意を持っていた人間が引き起こしたことだし、10年前亡くなったその人の友人だって、俺に好意を持った人間が起こしたことだった。犯人は全く別の人物だったけれど、俺に好意など持たなければどちらも起こることなかっただろ」
「……っ」
一瞬息が止まりかけた。
まず、颯太が私のことを好きだった?
確かに涼音がそんなことを言っていたが、まさか本当だったなんて信じられない。
颯太が私を好きになるような要素などどこにもなかったはずなのに。
二つ目、涼音を刺した人って無差別でも何でもなく、殺意を持った人間の犯行だったということだ。
「そうかもしれないけどねぇ。人が人を好きになることなんて止められないし、君の魅力をわざと落とす必要もないと俺は思うけどね。モテることは止められないけど、それとどうやって向き合って行くかが問題になるんじゃないかって俺は思うな」
「そう簡単に向き合えたらとっくに向き合ってる」
「だろうね。起きて早々にお墓参りに行って仕事帰りにも行ってね。行ったらしばらく帰ってこないしさぁ」
今回だって涼音は意味もなく、殺されてしまって。
長生きしたかっただろうに、颯太と共に生きることができなかったとしても、ゲームでの世界の玉房と幸せになりたかっただろうに。
「はいはい、こっちは暴走しないで」
ポンっと肩に玉房の手が置かれ、我に返った。
周りを見ればサイドテーブルに置かれた写真立てが倒れており、颯太は地震か?と呟いていた。
どうやら力が暴走しかけたらしい。
「そんな君に嫌だけど。すごく嫌だけど、碧を貸そうと思います。思っていることを彼女に吐いてみたら意外と向き合えるようになるかもしれないよ」
これは君のためにもなるかもしれないね、と小さく玉房に呟かれた。
思わずそちらを向けば、また肩を叩かれる。
「良いね、日没までだ。それまでに思っていたことや伝えたいことを伝えてきな。鵜羽と俺は離れた所から見てるから」




