困っていること
颯太の家は初めて入る。
遊びに来てもらったことはあったが、行ったことはなかったのだ。
玄関入って左側に洗面所とお風呂があり、その隣にはトイレがある。
玄関を真っ直ぐ行くと部屋が一つあり、その部屋の右側には小さなキッチンがあった。
部屋の中は必要最小限度の物しか置いていないようで、殺風景に見える。
「飲み物とか出せないから」
颯太はそう言いながらネクタイを緩め、ヨレたスーツを壁にかかっていたハンガーに引っかけた。
「あぁ、出さなくて良いよ。それより何か困ってることはないかい?」
「あんたそればっかりだな。言ったろ?あんたらが居なくなってくれたらそれで良いって」
「狐、突然そんなこと言われたら誰だって戸惑うし怪しむに決まっているだろう」
あまりにも玉房の対応が悪すぎて口を出さざる得なくなった鵜羽は呆れながらそう言えば、颯太は頷いた。
「悪かったな、急に現れた上にワケわからないことを言われ挙げ句の果てには、家に入れなくては行けなくなってしまって」
「全くだ」
鵜羽の謝罪の言葉に颯太は腕を組んだまま、壁に寄りかかりながら言った。
「自己紹介がまだだったな、俺の名前は翼。それで君と言い合いをしていたのが狐で、君が『真央』と呼んだ彼女は碧。よろしく」
「よろしくしたくないし、名前だって言いたくないね」
「そうだな、君は名前を言わない方がいい」
無闇に神様の名前で本名を明かさない方が良い。
名を縛られてしまうから、ということだろう。
鵜羽がそう言うとどういう意味だと颯太は問うた。
「怪しい人間にこれ以上個人情報を伝えるべきじゃないだろう?もう家は知られてしまったし、俺たちの名前は知られてしまったがな」
「そう言うことか」
「そういうことだ。それで、何故俺たちが君の後をつけていたかというと、今俺たちとある仕事を受けていてな、その内容が『困っている人を助ける』というものでそういう人を探しているときに君を見つけたというわけだ」
流石鵜羽、説明がうまい。
これが玉房だったらまた言い合いをして家から追い出されていただけだったで話が進展しなかったことだろう。
「こんな夜中にどんな仕事だよ。昼間探せば困ってる奴らなんてたくさんいるだろ」
何もこんな夜中の2時に探さなくても、と言われ壁にかかった時計を見てみたらちょうど2時になった所であった。
確かにこんな夜中に探さなくても良いし、わざわざ家に乗り込まなくて良い。
「いやぁ、俺には君が一番困ってるように見えてね。ほら、俺と同じ顔にそんな顔されると嫌な気分になるんだよね」
「そんなのあんたの都合だろ。俺には関係ない」
「別に君からお金を貰おうとか、何かヤバい勧誘をしようとか全く思ってないから。ね、何かない?困ってること、俺たちのこと以外で。今なら無料で何でもやってあげるよ」
玉房が言えば言うほど怪しく聞こえるし、これならまだ有料の方が安全性が高いとか思われそうだ。
「………何でも?」
あれ、食いつくのか。
鵜羽もまさか食いつかれると思わなかったようで、驚いた顔をしている。
「何でも」
颯太は何やら悩み始め、暫くしてから何故か私を見た。
「………碧だっけ、あんた」
「え、あ、あぁ」
まさか声をかけられると思っていなかったので、おどおどしく答えれば颯太は何故か楽しげに笑った。
「あんたに頼みがあるんだけど」




