目を付けられた男性
見えない中をさくさく進んでいく玉房について歩いている間も街灯もない。
人が1人も歩いておらず、車の通りもなく虫の声と風の音しか聞こえてこない。
そんな中を3人で歩いていると、駅のようなものが見えてきた。
終電もなくなったようで入り口にはシャッターが降りている。
その回りには僅かな電気がついたり消えたりを繰り返しているだけで、人の気配もない。
肝心な駅名の書かれた看板も電気が落ちていて見えない。
駅から続く通りを真っ直ぐに歩き、信号をいくつか通りすぎたとき。
「居た居た」
玉房の楽しげな声が聞こえ、真っ暗闇の中を目を凝らして見てみると、少し先に霊園があるらしくそこへ向かう1人の男性がいた。
こんな時間にそんなところへ行って怖くないのだろうか。
「こんな時間にお墓参りか?」
鵜羽が不思議そうにそう言えば、玉房は首を立てに振った。
「わざわざこんな時間に来るなんてさ、彼何か困ってそうじゃない? というわけでついて行こう」
そう言うやいなや玉房はどんどんその男性の後を追いかけて行くので2人でため息を吐きながら、その後を追いかけた。
やはり男性は霊園の中へ行き、とあるお墓の前に行き、腕に持っていたらしい大きな花束を供えている。
元々供えてあった花に持ってきていた花を加え、立ち上がったと思えばその場に立ち尽くしている。
それから男性は微動だにせず、数分、いや数十分はそこに居ただろうか。
最後にお線香を上げ、終わりかと思いきやまたもや立ち止まっていた。
かれこれ1時間以上そこにいた男性は名残惜しむようにその場を離れかけたので、玉房はそこを狙うかのように男性の前に立った。
「やぁ、君。初めまして」
「………誰?」
男性の顔は暗くて見えないが、玉房と同じくらいの背の高さで体型も似ているように見える。
マスクをしており、何やら玉房と似た風貌だ。
男性と玉房の違いと言えば、男性の目の下には隠しきれていない隈があることと、ヨレたスーツを着ていることだろうか。
「困ってそうな人がいたから声を掛けてしまったよ」
「………別に困ってることなんてないんで、じゃあ」
警戒しているのが丸分かりな男性の反応に玉房は鼻で笑った。
「あの花、全部君が準備したのかい?どう見ても全部真新しいものばかりだね。もしかしてこの時間だけじゃなく他の時間にもここに来てるんじゃないかな。何か思うことがあってそんなことしてるんじゃないかな。気になるなぁ」
玉房のいつもの調子で言えば、男性は反応を示さず私たちの横を通りすぎて行った。
玉房はそれを楽しそうに見つめるだけで追いかけようとしない。
この男、一体何を考えているのか。
「さ、先回りしますかね」
「先回りだと?」
「そ。彼が家に入る前に待ち構えようかな」
鵜羽が頭を更に抱え始めたので、その肩を励ますように叩いてやる。
本当にこの男の考えていることはよく分からない。
今分かっていることはターゲットにされた男性が哀れだということだけだ。
こんな男に目を付けられて可哀想に。




