これ以上失わせないでよ
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「嫌だ」
冷たい声音で玉房にそう言われ、気付いたときには抱き上げられていた。
暴れる気力もなく、されるがままになっていたら、頬に何かが当たった。
「………頼むからさ、俺にこれ以上失わせないでよ」
何を言われているのか分からず、顔を上へと向ければ玉房の瞳から涙が流れていた。
何故玉房が泣く必要があるのだ。
まさか、玉房も涼音のことが好きだったのに泣きたいのに泣けなかったのを我慢していた所に幼馴染みの翠からのこのまま置いていけ発言に我慢していたものが流れてしまったのか?
「鵜羽は怪我するし、大切な仲間だと思っていた明…さんはこいつのせいで最悪な結末は迎えるし、君は力解放して死に急ぐし死にたがるし…もう、大切な人に傷付いて欲しくないし居なくなって欲しくないんだよ」
背中と足に触れている玉房の手に力が入り、またもや青い光が玉房の周りに集まり始めた。
光がだんだんと大きくなり、目が開けられなくなる。
慌てて目を閉じ、暫くして目を開けば元に戻ってきたことが何となく分かった。
数歩前には龍流が左右に首を振り、とある方向へ走り出した。
そこには無傷の犬縁と小さいサイズに戻ったマロ、何故か切り傷だらけの雀炎の姿があった。
どうやら大きな怪我はなく戻ってこれたらしい。
そう、ここにはいない涼音以外は。
ここは主人公不在でも話は続投され続けている。
先程までこの世界を壊そうとしていたのに玉房に止められるしもとの世界には戻された。
本当にこの後、どうしていけば良いというのだろうか。
「………ねぇ、君。あとでさ、明、さんのこと聞かせてよ。それでさ、お墓を一緒に建てよう」
この学園を見下ろせるあの山に、と玉房は言った。
今まで翠と呼んでいた玉房が私のことを君と呼ぶのも、涼音のことを明さんとすんなり呼べないのも、あのときの私と涼音の会話のせいだろう。
それを踏まえて話を聞かせて欲しいと言いたいのか。
「………そうだな」
まぁ、良いだろう。
過去を振り返りながら、次に自分が何を行っていけば良いのかを話ながら決めて行こうじゃないか。
この滅多に泣かない男の涙を袖で拭いながらさ。




