この涼音のいた場所で
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「はい、ストップ」
肩に手を置かれ、さっきまでガタガタと音がしていたものがいっきに消えた。
何が起きたのか確認しようとすると、しゃがみこんだ私の顔を覗き込むようにして玉房が私を見ていた。
「君は何をしようとしているのかな。さっき言われたでしょ、後を追いかけて死ぬなって。何真っ先に約束破ろうとしてるのさ」
「……だけど」
こんな世界など、もう何の意味もなさないじゃないか。
主人公不在では契る相手もいないし、最高の神様にだってなれない。
物語が成立しないじゃないか。
このままこんな世界なんてあったところで何の意味がある。
「ダメ。こんな所で君を絶対に死なせないから」
玉房はそう言うと、水晶を取り出しそれを外鬼の本体に向けた。
すると、まるで掃除機のスイッチを入れたかのように凄い勢いで外鬼を吸い上げ始める。
「な、何ですか、これは?!」
その隙を狙って龍流は右手を広げ外鬼に向け、開いていた手を思い切り握り締めた。
「ぐぅあああ!」
それと同時に外鬼は苦痛な声を上げ、抵抗する間もなく水晶へと吸い込まれていく。
「俺の仲間に手を出したんだ。覚悟、出来てるよね?」
吸い込んだ外鬼は中にいた分身と融合した途端にのたうち回り、苦痛な叫びを上げている。
「お前がどんなに力をつけようとも一族には2度と戻れねぇし、この土地にもいられねぇよ。無事に生きて戻れると思うな」
さらに追い討ちをかけるように龍流が水晶の中へと爆風と雷を吸い込ませ身体に当たった風や雷が彼を拘束していた。
「そこから抜けることは出来ないよ。例え翠の髪の毛があったとしても、それは今ほどの力は宿っていないし、その程度で本気を出した俺や龍流に叶うわけないでしょ。因みにこれ以上に力出さない方がいいよ。力尽きて消滅しかねないからね。ま、そんなことさせるわけないけど。君にはもっと残酷で苦しんで貰わないと。だって、俺の仲間はもっと苦しんだんだからさ」
そう言う玉房の周りには見慣れない青白い光が集まっているように見え、あるはずのないフサフサとした尻尾が見えた気がした。
外鬼が水晶に入ってから暫くして外鬼が作り出した異空間に歪みが生じ始めた。
どうやら術者の外鬼がこの空間を維持できなくなったようだ。
「さて、戻りますか」
「………だな」
玉房と龍流は水晶の周りを厳重にシールドのようなもので囲むと、その場を去ろうとした。
私は立ち上がる気力もなく、いっそのこと涼音がいたこの空間に最期までいたかった。
玉房にはさっき涼音が言っていたことを思い出し約束を破るなと言われたが、これから先、涼音のいないこの先の未来をどう生きて行けば良いのか分からなくなっていた。
なら、もういっそのこと約束を破ってでもこの空間で共に消えさせて欲しい。
「いつまでしゃがみこんでるのさ、全く。ほら、帰るよ」
玉房に手首を捕まれ、引っ張られたが私は立ち上がらなかった、いや立ち上げれなかった。
「………置いてってくれ」
このまま、ここで最期を迎えたい。
この涼音のいた場所で。




