ありがとう、大好きでした
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「涼音、なぁ、涼音!目を覚ませよ!」
肩を掴んで揺すっても反応もなく、腕を取り脈を調べようにも脈を感知できない。
まさか。
まさか……!
そう思っていたとき、何となく肩を叩かれた気がして横を見たらほとんど形を成していない昔の姿の涼音がいた。
『ごめんね、真央。私ダメだったみたい。あぁ、このゲームにこんなバッドエンドがあったとは知らなかったなぁ……』
「す、ずね?」
縋るように叩かれた手を触ろうにも通り抜けてしまって触ることができない。
それを見た涼音は薄く笑った。
『真央、どうやら私、完全に消滅するらしいの。あの男にそんな術を掛けられちゃったみたいでね』
「っしょう、め、つ、だと?」
『うん。私も真央みたいに力があれば抵抗できたかもしれないけど、何にもできなかったや。悔しい』
「どうにかできないのか、諦めるなんて涼音らしくない。なぁ、そうだろ?!」
悲痛の叫びのような声を上げるも玉房も龍流もこちらを見ようともせず、外鬼だけが嬉しそうにこちらを見ているだけだった。
『ねぇ、真央。私、真央に謝らなきゃいけないことがあるの。
実はね、私、颯太と真央がお互いに思い合っていたことを知った上で付き合えるように手伝って欲しいって言ったの。だって、真央に取られたくなかったから』
「な、何を言って…」
お互いが思い合っていた?
そんなわけない。
颯太が私を好きになるなんて絶対に。
だって、玉房と似たように接していたんだぞ。
甘さなんてなかったし、お互い喧嘩しかしていなかったのに好きだなんて。
『きっと状況とかが異なっていたら私が真央のこと階段から突き落としてたと思う。それくらいあの頃、2人が一緒の所を見かけるたびに心の中にモヤモヤが溜まって、真央のこと恨んでた。可笑しいよね、私たち親友のはずなのにね』
「………」
まさかそんな風に思われていたなんて微塵も思わず、涼音に接していた。
いつも楽し気に笑う顔の下でそんなことを思っていたなんて。
『真央が死んでからやっと颯太と2人になれると思ったのに、颯太ってば毎日朝、夕2回、どんなことがあっても真央のお墓参りをする習慣ができてね。前よりさらに何を考えてるのか分からなくなっちゃった。あぁ、結局何をどうしても私じゃ駄目だったんだなって思った10年だったな。 10年の節目だからって珍しく2人でお墓参りに行ったと思ったらあんなことが起きて、この世界に来てさ』
涼音は一度口を閉じた後、再度口を開いた。
『真央に会って。私ね、呪われてたんだって思ったの』
「ま、さか、私、涼音のこと一度も呪ったことなんて」
涼音は首を左右に振り、また笑った。
『ううん、運命に。案の定、涼音が大変な目に合ってる中で私は1人ゲームイベントを楽しんじゃってたからこんなことになるしさ…』
そんなこと本来このゲームは乙女ゲームなのだから、それを楽しまない方が可笑しいというよりそれが物語の主な出来事だ。
今起こっていることの方が特殊なだけである。
私は言葉がつまり、首を左右に振り続けた。
『………ねぇ、謝っても許して貰えないと思うけどごめんね。いっぱいいっぱいごめんね』
さっきまで笑っていた涼音の目じりからたくさんの涙が流れ始める。
それを拭おうとしたいのに通り抜けて拭うことができない。
『ねぇ、真央。この世界は私の知っている世界と大分違うみたいだけど、この世界でこんどこそ幸せになって。絶対に私のあとなんて追ってきたら許さないんだから』
――――――幸せだよ。私、ここに来て良かったって思ってるもの!
そう言って笑ったときと同じように涼音は笑い、姿がどんどんどんどん薄れて行く。
「待て、涼音! 逝くな!」
そう言って手を伸ばすもやっぱり何も掴めない。
涼音はそれを微笑ましく見ているだけで、消えたくないと一言も言わなかった。
『ねぇ、真央。私ね、散々貴女のこと恨んでいたのにね、やっぱり、大好きなの。今まで本当にありがとう』
「涼音ええええええええええええええええ!」
その言葉を最期に涼音の姿と実際にあった身体が跡形もなく消えてしまった。




