冷たい手
犬縁と雀炎にあの場を任せ、玉房と龍流と共に本体の気配を辿り歩いていく。
龍流に龍をあの場に残したままだが良いのか確認した所、あの龍はただの紙で書いた式に過ぎず、何体でも作成ができるもののため置いてきた所で困りはしないらしい。
「にしても、こんな屋敷の奥に一族でもない俺や翠が入って良いのかね」
「実際の屋敷に入ってるわけじゃねんだ。いちいち気にすんな」
「まぁそうなんだけどね」
奥へ奥へと進んでいくと、一つの建物にたどり着いた。
どうやら龍流すら入ったことのない建物で中身がどうなっているのか知らないらしい。
「ここから気配がするね。一緒に明さんの気配も」
「明……」
やはり一緒にいたか。
何のために連れ去ったのか分からないが、絶対に許さない。
一発お見舞いしてやる。
「開けるぞ」
龍流が扉に触れ、豪快に開けば。
「な?!」
珍しく同様の色を見せる龍流に、私と玉房は慌てて近寄り中を覗いてみた。
そこには。
「あれ、早かったですね。まぁ、こっちもひとつ用が済んだので良いんですがね」
涼音の右手だけを引っ張り上げ、それ以外は畳の上で項垂れさせる外鬼の姿があった。
涼音の顔は髪で隠れ見えていないが、意識があるようには見えない。
「涼音?!」
すぐにそちらに向かおうとするも玉房に腕を掴まれたままで、そのまま引き戻される。
「ストップ」
いつになく低く真面目な目をする玉房に、珍しく彼が動揺しているように見えた。
まさか涼音はまずい状態なんじゃ。
なら尚更こんな所にいないで近くに行って声を掛けたいのだが、龍流からも抑えられた。
「落ち着け。行くのは今じゃねぇ。状態は分からねぇが無暗に近づいたら相手の思うツボだろ」
そうなのだが、涼音…。
こちらからは無抵抗に外鬼に手をひっぱりあげられているだけで、あの手を離したら床に倒れ込むんじゃないかと思える。
「いや、実はですね。この子も彼女同様に近くにいるとどうやら力を増強できるみたいでですね、やってみたんですがダメですね。彼女の方が効果ありました。というわけでこの子はお返しします」
用済みです、と外鬼は涼音を見えない何かで浮かせたかと思えば、投げつけてきた。
それは龍流の腹部目掛けて投げつけられた。
「ぐっはぁ!」
「あらら、女の子ひとりくらいキャッチくらいできないと蘭に泣かれるよ?龍流」
「うるせぇ!だったらお前はキャッチできんのかよ?!」
「投げられた相手によるんじゃない?」
そんなやり取りを横目に龍流の腹部の上でぐったりとしている涼音に駆け寄って声を掛けるも反応がない。
「涼音、おい、涼音、目を覚ませ!」
頬を叩いても反応がなく、手を触ってみると異様に冷たかった。




