立ち位置
糸を辿ると龍流の一族がいるという大きな家の前に辿りついた。
それはどうやら中へと続いているようである。
龍流は勢いよく扉を開き、中へと入って行くととある男性に話しかけた。
その様子を玄関から見ていると、龍流はこっちに手招きをし中に入ってくるようにと促してきた。
長い廊下を通り、龍流のもとへと行くと男性は奥へと入って行ってしまった。
「父さんから許可を得た。行くぞ」
表情を硬くしながら言う龍流に、雀炎が噴き出した。
「お前、そんな顔出来たのか?!初めて見た!」
「ちょっと、雀炎。龍流君に失礼でしょうが!」
「だって龍流っていっつも澄ました顔してんじゃんか」
「龍流君だって感情があるんだから当たり前でしょ?!」
相変わらず緊張感のない雀炎と蘭のやり取りにいつもなら落ち着け、と入ってくれるはずの鵜羽がいないので2人の言い合いにストップしてくれる人材がいない。
そういえば鵜羽と影蛇の姿はないが大丈夫なのだろうか。
鵜羽に関しては雀炎の家の書庫で会ったのが最後だが。
「はいはい、どうやら犯人はすぐそこにいるみたいだから大人しくしてね」
珍しく玉房がそう言い、皆で奥へと足を進めて行った。
突き当りの襖の中に糸が入っており、それにその襖に龍流が触れた瞬間。
「皆、離れろ!」
玉房の一声に従い、左右に分かれる。
次の瞬間、襖の外から先ほど見た鎌がこちらに向かって投げつけられ玄関の扉に突き刺さっているのが見えた。
涼音はたまたま近くにいた犬縁に抱きかかえ避けられたようだ。
私はというと。
「………」
「ちょっと、そんなに嫌な顔するのやめてくれない?」
「喜べとでも言うのか」
「こんなイケメンに抱きかかえられて嬉しい!とかってならないの?」
「なるわけない」
よりによって玉房に抱きかかえられていた。
自分で自分のことをイケメンと言う人物、初めて見たわ。
生前ではお会いすることないまま人生終えたな。
まさか終えてから会うことになるとは思っていなかった。
「だよね。さて、ここからが本番みたいだ。気を引き締めないとね」
玉房は襖を睨みつけた。
すると、右側の通路と左側通路から人がやってきた。
どうやらさっきほどの音で屋敷にいた人々が数人出てきたようだ。
「……まずいな、父さんに人を避けて欲しいと伝えたばっかりだかなぁ。伝わりきれてなかったか」
龍流がボソッと呟いた。
どうやら先ほど分かれた父親に何かを伝えるように依頼していたようだ。
「何だ、何が起きた」
「玄関の方から凄い音がしたぞ?!」
次から次へと足音と声が近づいてくる。
こんな狭い空間に次から次へと集まってこられると動くに動きにくくなる。
これはどうにかした方が良さそうだと思っていると、龍流が口を開いた。
「おい、ここから離れておけ。今から戦場になる」
「龍流様?!」
「何ですと、それは本当ですか」
その一声に出てきた人々は慌てたように反対方向へと逃げて行った。
この屋敷の中の龍流の立ち位置が気になるほど潔く去って行ったな、今の人たち。




