術者
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来た道を戻り学園の中に入った瞬間。
あの嫌な気配が広がった。
またあの気配。
1人になった途端にこれだ。
方角はどっちだと探ろうとするも、察知能力がないので詳細が全く分からない。
こんなときに察知能力のある人物がいれば、と思ったとき、今向かっている所に犬縁がいることを思い出しそこへ向かった。
放課後とはいえ、誰もいない学園内を歩いているとこちらに向かって走っている雀炎と犬縁とマロがいた。
「あれ? 何で翠がここにいるのさ」
「情報収集を手伝おうかと思ってきたんだが…途中で嫌な気配がして」
「こっち、こっちから嫌な気配がする!」
マロが立ち止まっていた犬縁のズボンの裾に噛み付き、とある方向に向かって引っ張っている。
「分かった、今すぐ行くから」
めんどくさいな、と言いながらマロを抱き上げた犬縁はマロが指さす方向へ足を向け始めたのので、その後を雀炎と共に追い掛けた。
辿り着いた場所は入学式のときに出くわした校庭で、何やら黒い靄がかかっている。
今回どうやら宝具が盗まれるとかの気配ではなく、この黒い靄の気配だったようだ。
その中心には人型のようなものも見えている。
「なぁ、もしかして術者か?」
こそっと耳打ちするように雀炎が犬縁に言えば、だろうな、といかにも面倒くさそうに答えていた。
まさかこんなにも早く術者本人と会うことができるとは思っていなかった。
今回は1人じゃないし、少しほっとする。
「オレが片したら英雄になれっかな?!」
「なれんじゃねぇ?分からんけど。それよりこれからどうする。いつまでも見てる訳にもいかないだろ」
犬縁の言う通りだ。
このまま隠れて見ていても状態は変わらない。
いつ消えていなくなるのか分からないのだから見えている今動かなければ。
「うっし。ここはオレが先手必勝というやつを見せてやるか!」
そう言うと、手のひらに小さな鳥を出した。
「ぐっちゃん、あの靄を消し去る程の炎を出してくれ」
「えぇ…僕お腹空いてるからそんなに力出ないよぉ」
「終わったらお菓子でも何でもあげるから頑張ってくれってば!」
鳥に向かって土下座する雀炎にこの絵面可笑しいだろ、と思っていると、雀炎がお願いしたように鳥の口から靄を消し去る程の炎が出て術者の方へ一直線だ。
通常なら火傷しそうな炎のように見えるが、何となく当たらない予感がした。
「ふぅ…こんなもんかな。ねぇ、終わったからお菓子頂戴」
「おう!ちゃんと後で渡してやるって」
「えぇ、今が良い…」
そんなやり取りを横目に術者の方を見ると、案の定術者には当たっておらず、仮面を被った人物がこちらを向いて立っていた。