その傷は何だ
死にたくないならその力は使わない方が良い、ね。
「それなら私からも言わせて貰おうか」
私は玉房の襟を引っ張り睨み付けた。
「お前何だその手の傷」
今まで握られていたために隠されていたが、私が蹴った拍子に手が見え、そこにはいくつか傷が出来ていた。
その他にもマスクで隠しているようだが、頬が僅かに斬れているのが見える。
腕だって、服で隠れているようには見えるが切り傷が見えていた。
「滅多に厄介ごとに顔を突っ込まないお前がこんな傷を作ってまで何してんだろうな。気配だって追えて攻撃だってできるはずのお前がこんなに傷作るとか可笑しいよな?
………もし、単独で今回の事を片付けようとしてるんだったらふざけるなよ」
近くにあった額に頭を打ち付け、更に睨み付けた。
「いくらチートだとしても、仲間を差し置いて突っ走る奴なんて仲間を信用してないっていう証拠だよな。お前の仲間はそんだけ弱いのか?
それかあれか。あの敵を倒すのに無限ではない力を皆に使わせないためとか言い出すんじゃないよな?とんだ自己犠牲じゃねぇか、玉房。そんなの誰も望んじゃいねぇぞ」
打ち付けた額が痛いが、目の前の玉房を睨み付け続ける。
「察知能力がある奴らに協力を仰げよ。そうじゃない奴らだって誰もお前を手伝わないなんて言わねぇだろうが。力だってそうだ。誰か1人に負担がかかるようなこと誰も望まねぇよ!」
どうせ危険から遠ざけるために全員で調べものを進めるように玉房が言ったに違いない。
その間に玉房は敵の気配を見つけては1人で戦っていたのだろう。
その証拠に先から何も言ってこないじゃないか。
今回、私に力を使わせないために言ったように聞こえるが、玉房のことだ。
私の事を思っていたのではないだろうとすぐに分かった。
じゃあ誰の事を言っているのかと考えたとき、鵜羽たちのことが頭に浮かんだ。
彼らは書庫で本探しを続けているという話を涼音から聞いていた。
それなのにこの男、それで出来るような傷ではないものばかりを身に付けていたことに後で気が付いた。
この間見た鵜羽や雀炎や犬縁にはこんな傷はなかった。
まぁ、雀炎はこの間の傷が残ってはいたが、真新しくはなかったのだ。
握りしめていた襟を思いっきり解き放し、俯いている玉房から視線を反らした。




