念願は叶ったものの
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「咄嗟に5か所に人を割り振るときに、気配を察知できるメンバーを考えた。まずは俺、その次に龍流、次に犬縁、そして影蛇。そこにもう一人ずつ付けたときに1人溢れた。それが翆。翠は破壊力のある力を昔から持っていたから逆に人がいない方が暴れやすいし、宝具がない場所の方が遠慮しなくて済むかなとか思ったんだけど、まさかこんなことになるなんてね」
そう言われ、右手を左頬へ持っていく手が見えたときには、気付いたら目の前のこの男を殴っていた。
「痛っ?! 何?! 何で殴られたの今」
何故殴ってしまったのか自分でも分からず、自分の握った右手を見た。
念願が叶ったことは喜ばしいが、何だこの心から喜べないこの感じは。
「いきなり触ろうとしたから?それとも馬鹿にしたから?どっちにしろ悪かったのは俺だけど、いきなり殴らないでよね」
「すまない」
「謝る気もないのに謝罪の言葉なんていらないよ、全く」
痛むであろう頬を摩りながら椅子に座り直した。
まだ座って話すことでもあるのか、この男。
「あぁ、違うそうじゃない。……今回のことは俺が悪かった。以前の翆とは違うって分かっていながらも同じようにするだろうと勝手に思い込んだからお前を危ない目に合わせた」
「は?」
玉房が私に謝るだと?
まさか殴ったせいで打ちどころでも悪かったんじゃないのか。
「他の奴らから謝って来いって言われたの。俺のせいで翠は危険な目にあったんだって。確かに今回のことは俺の思い込みから生じたことだし、反省してるよ」
やっぱり可笑しい。
ここはもう一発殴るか、と構えれば玉房に右手を抑えられた。
「打ちどころとか悪くないから! 素直に受け取ろうとか思わないの、翆?!」
「日頃の行いを顧みて見ろ。素直に受け取れる要素がどこにある。まぁ、もう一発受ければ正常に戻るだろうから殴らせろよ」
「何なのこの子?! 前と違った意味で怖い」
そこへ回診に来た看護師に玉房は追い出されることになり、私は息を吐きだした。
前と同じ翆、ね。
確かに前の翠なら土地の心配とかせずにこの破壊の力を使っただろう。
でも、私はこの力を使おうなどと微塵も思わなかった。
だってこの力はどこまで何を破壊させるのか未知すぎて使いたくないのだ。
力が発覚したのは、玉房と蘭の2人と離れてからでそれは突然に起きたのだ。
家の壁ががたがたと揺れ、気付いたときには壁が砕け散っていた。
その時に部屋に駆け寄ってきた女性――母親は慌てて私を抱き込み、落ち着くようにと言われそのときに始めて自分がこの部屋の壁を壊したのだと知った。
それから力について母親から説明を受け、制御するような訓練が始まったのだ。
気が緩んだりするとすぐに身近なものが壊れていくようになった。
今ではちょっとやそっとなことで力の暴走を起こすことはなくなったが、何がきっかけでまた解放されるから分からないこの力は恐怖しかない。
なので、あのときのようなことが起きても力を使ってどうにかしようなどと思えなかったし、考えもしなかった。




