死んだと思った
まさかゲームの世界でもう死ぬことになるなんて誰が思うだろうか。
乙女ゲームにこんな危険なシーンがあると誰が想像する。
主に恋愛重視のはずなんじゃないのか。
攻略対象キャラクターには一人で危険な所に行けと言われたようなものだし、いくら悪役令嬢?とはいえ、こんな呆気ない終わり方なんて納得が行かない。
見えない敵に対してどう戦えば良かったと言うのだ。
それ以前に女一人に危険な場所へ行かせるとか本当に何考えているんだ、あの男は。
私が男ならいくら腹が立つ相手でもそんなことさせないぞ。
思い出すだけでも腹が立つ。
目が覚めたら一発殴りたいほどに。
そもそも目が覚めるのか分からないが。
「真央、真央」
あぁ、どこからか涼音の声がする気がする。
もしかして、涼音の方でも何かあって涼音もゲームの世界からリタイヤしたのだろうか。
もしそうだとしたらあの男、涼音を守れなかったと言うことか。
絶対に許さないぞ。
これはどんなことをしてでも目を覚まして、あの男を殴らなければ気がすまない!
「真央!」
「え?」
幻聴かと思っていた声が近くから聞こえ、覚めないと思っていた目が覚めた。
目の前には明の姿の涼音が涙を溜めて私を見ていた。
右手は両手で掴まれ、左手はギブスで固定されている。
左頬には何が貼られ、顔を動かすと痛む。
右側には白いカーテンのようなものが引かれ、左側には窓があった。
どうやらまだゲームの世界にいるようだ。
これであの男を殴りに行けると思っていると、正面から軽い衝撃があった。
「良かった…また死んじゃったのかと思った…」
涼音に抱き締められ、左腕が痛むが動かせる右手でその背中を叩いた。
そうだよな、涼音からしたら私が倒れている姿を見るのは2度目だもんな、悪いことをした。
それにしてもどうやって私は助かったんだ?
「涼音、悪かったな。もう大丈夫だ。それよりも私が倒れてからどうなったのか教えて欲しいんだが」
そう言うと、涼音はゆったりと体をお越し元の椅子に腰かけた。
「……どこから話せば良いのか分からないんだけど」
涼音が言うには、宝具のある場所に私が出会したような見えない何が現れたらしい。
気配を察知できる玉房や龍流、匂いで気配を追える犬縁、蛇の目で視ることのできる影蛇にはその者を見つけられ、少し争ったらしい。
暫くして敵わないと察した見えない何かは消え、元の世界へ戻ってこれたらしい。
戻ってきたのは良いものの、学校関係者と出会してしまいそっちの方が大変だったという。
「私の他に怪我人は?」
「雀炎君が真央みたいに切り傷がある程度で、真央ほどの重傷者はいないよ」
それにしても、と涼音に左頬に触れられた。
「また傷が出来ちゃったね。 それにあんなに長くて綺麗だった赤い髪も明より短くなっちゃって男の子みたい」
言われてみればいつも視界に入っていた長い髪がなく、頭が軽い。
どうやら髪をばっさり斬られたようだ。
「ホントだ…」
「何だか真央に戻ってるみたいね」
「確かに」
昔に戻っているようだ。
頬の傷も髪の長さも。
「あ、そうそう。真央のことなんだけど、玉房が助けてくれたんだよ」
「あ? よりによってあの男に?」
「まぁまぁ」
私と別れた後、玉房と涼音は急いで宝具を確認しに行き、見えない敵を瞬殺したらしい。
その姿がカッコ良かっただの、ゲームで見るより本物の方が素敵だっただの頬を染めながらマシンガントークをする涼音に私は呆れた。
それは良いのだが、私はどの時点であの男に助けられたのだ。
「あ、それでその敵を倒した後に真っ直ぐ真央の所に行って真央が倒れているのを発見したの」
その後、玉房が私を抱え病院に連れて来てくれたのだと言う。
お姫様抱っこ私もされたかったとがっかりしている涼音に私は微妙な気分になった。
敵を瞬殺?
その後真っ直ぐこっちに来た?
まるで私がすぐに殺られると分かっていたようじゃないか。
分かっていたなら何故1人で行かせたんだと言いたい。




