口喧嘩
こんな風に昔も2人の後ろを歩いていた。
楽し気に会話する2人を見ているのが辛くて、最後には床ばかり見ていたっけ。
そんなこと思い出しながら歩いていたら、目の前の鵜羽の背中に顔をぶつけた。
「わ、悪い…」
「いや、こっちこそ。 大丈夫か?」
鼻を抑えながら一歩下がれば、深緑色の瞳と目が合った。
この鵜羽からは今までのような険悪な雰囲気は感じられない。
それは雀炎や犬縁もだが。
以前の翆と関りがなかったからなのだろうな。
「大丈夫だ、すまない」
「ちょっと、2人とも置いていくよ?」
少し離れた所から玉房に声を掛けられ、2人して急いでそこへと向かった。
それからしばらくして涼音を寮へと送り、3人で帰ることになったのは良いのだが。
「ねぇ、翆。 宝具のことなんか調べて何がしたいの? この地を壊すとか、世界征服とかでも考えてんの?」
3人になった途端にこれだ。
「何も考えちゃいない。 そう思いたいならそう思えば良い」
「………修行に出る前から今までとは違う意味で変になったとは思っていたけど、まさかそれが継続されていたとはね」
「俺を間に挟んで険悪モードを続行するのはやめてくれ」
鵜羽、別に私は作ろうとして険悪ムードを作っているわけではない。
犯人は隣でつまらなそうな目をしてこっちを見ている男のせいだ。
「蘭も言っていたけど、本当に変わったね」
「変わった変わってないなどどうでも良いが、私に構うのはもうやめろ」
「えぇ? 昔はあんなに『玉君~会いたかったです』とか『相手してくれないと怒っちゃいますよぉ』とか猫撫で声で言ってきてたじゃない。こっちは構いたくもなかったのにさ。それをこっちから構いに行ったら『構うな』とか酷くない?」
「昔のことは……何だ、忘れてくれ。今後こちらから構うことなどないから安心して欲しい」
「えぇ、何それ。仮にも幼馴染に言うの?」
面倒くさい。
本当にこの男、面倒くさいぞ。
構われたくなかったんだろ?
なら良かったじゃないか、こちらから構われなくなったんだから。
「はいはい、もうお前ら口喧嘩禁止。 大人しく帰ってくれ、頼むから」
「口喧嘩なんかしてないよ、鵜羽」
「もういいから黙って歩く」
それからちょこちょこと鵜羽を挟んでちょっかいを出してきたが、私はそれに一言も答えなかった。
颯太ともこんなやり取りしたことがあったな。
その時は涼音を間に挟んで話してたっけ。
当時は構われると嬉しくて、構われないと悲しかった覚えがある。
出来るだけ傍に居たかったけど、涼音を応援する身としてはそんなに近づいてはいけないという気持ちもあった。
意地悪だけど、本当は優しいあの男は今もあの世界で一人、暮らしているのだろうか。




