物語開始前
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女性に連れて来られたのは小さな家だった。
洋風ではあるもののどこか和風さを感じさせるのは作成者が日本人だからなのか。
家の中に入ると、白髪の少年とピンクの髪の女の子がいた。
もしかして彼らが玉と蘭なのだろうか。
2人ともこちらを見て何やら警戒しているのが分かるのだが、何故警戒されなければならないのかが全く分からない。
「あら、もう来てたのね、2人ともいらっしゃい」
女性はそう言うと2人の頭を片手で撫で中へと入っていく。
2人は嫌がりもせずにそれを受け止めていることから、このやり取りは初めてではないのだということが分かる。
「いつもの『玉君じゃないですかぁ! 会いたかったですぅ!』って奴やらないの?」
ピンクの髪の女の子、恐らく蘭が淀んだ目でこちらを見ながら言ってきたのだが、この翠って子、そんなにくねくねしながら高音出すのか?
無理だろう。
「翠が大人しいとか違和感しかないね」
この白髪の少年、玉だったか。
マスクで顔の半分は隠れてるし、長い前髪で右目は隠れてるので左目しか見えていない。
まるで、私が好きだった男に似ており、その人は幼馴染みの好きだった人でもあり、ゲームの中にいた玉房というキャラクターにも似てもいる。
もしかしてこの少年、玉房というキャラクターだったりするのか。
玉房だから玉君なのかもしれない。
にしてもこの馬鹿にした言い方、あの男の言い方そっくりで腹立つ。
「………、…」
怒ろうと思って口を開けるも何をどう言えば言いか分からず結局口を閉ざした。
その様子に2人は首を傾けていると、奥から女性の声がした。
「そんなところにいないで、中へいらっしゃいよ」
そう言われ2人は渋々中へと入っていったのだが、後ろを私が歩くのが気になるのか何度も振り向かれた。
いや、そんなに警戒しなくて何もしないけど。
奥はリビングのようで、テレビと食卓、ソファ、キッチンがその奥にあり、女性はキッチンから4人分の飲み物とお菓子を持ってきていた。
「玉君は確かそろそろ修行に出ちゃうのよね。 悲しいわ」
「はい、一族にはなるべく早く出るようにと言われています」
女性には行儀よく話すところを見ると、玉にとって女性は敬う対象で私は馬鹿にする対象なのだろう。
そういう所も本当にそっくりで嫌になる。
幼馴染もよくこんな男を好きになったもんだ。
「偉いわね。 蘭ちゃんもそろそろ修行出ちゃうの?」
「私も出ますよ。 雀炎になんか負けてられませんから」
テーブルに置かれたお菓子に手を伸ばしながら、会話を聞いているのだが修行って何だ。
もしかして私もどこかに何かの修行に行かないといけないのかな。
それに今、雀炎って言ったか。
雀炎って言ったら、ゲームの中にいたキャラクターで元気一杯の青年って感じだった気がする。
「ふふふ、2人とも凄いわ。 翠、寂しくなるわね」
寂しくも何もさっき会ったばっかりで何も思わないんだけど、以前の翠なら寂しく感じるんだろうな。
「………今日の翠、いつになく静かですけど何かあったんですか?」
ボリボリと味がよくわからないお菓子を口に入れ、ティッシュで口を拭く。
蘭から視線を感じるが、下手に何も言わずに俯く。
「2人がいなくなるから寂しいのよ、きっと。 いつも側にいた子たちが居なくなったら2人も寂しく感じるでしょう?」
「え、そんな感情あんたにもあったのね」
おいおい、人のことどんな風に見てるんだ蘭は。
そんな風に思われる翠も十分可笑しいのだが、いくらなんでも酷すぎる反応だ。
「まぁ、清進学園に通う頃には戻ってくるんだけどね」
何でもないように玉はそう言ったのだが、え、今、清進学園と言ったか。
だとしたら確実にこの男、玉房だ。
玉房がこんなに小さいということは、清進学園に通う前の出来事が今起こっているということ。
ゲームでは一切描かれていない部分というわけだ。
これから数年後に物語が開始されるということか。
さっき、玉房や蘭が言っていた修行とは恐らく神様となる修行なのだろう。
実はゲームでは彼らは神様になる途中の存在で、主人公と契りを交わすことで1人前の存在になるという話だったりもする。
なるほど、そういうことだったのか。
でも、今の話の流れだと翠は修行には行かないような流れだったような。
「皆が再会するのはこれから10年後か… みんな素敵な子になっているんでしょうね」