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前の世界の私

前の私は今と異なり非常に明るく、馬鹿なことをやる子だった。

何もできない癖に先陣斬ってやっては空回りして皆を笑わせていた。

本当はそうすることで人に認めて欲しかっただけなんだと今では思う。

私の周りは1教えれば10のことができる人だらけで、落ちこぼれと言われていたのは私だけだった。

そんな中いつも私の隣で笑ってくれていたのは、小さい時から傍にいてくれた涼音で、辛い時も楽しかった時も傍にいてくれる、そんな涼音のことが大好きだった。

その涼音が好きだったのが、人一倍何でもできる男で人を馬鹿にしたような態度を取る颯太という人物だった。

のらりくらしとしているような男で、何を考えているのかさっぱり分からないし見た目だって怪しさ満載の男だった。

どこが良いのか涼音に聞いた所、優しくてかっこいい所と言われたがそんな要素があの男にあったのかと思ってしまった。

私の前では鼻で笑うか挑発してくるかのどちらかしかなかったというのに。



でも、あるとき。



私が何をやってもダメで、落ち込んでいた時、たまたま颯太が私の前に現れた。

そのまま素通りしていくかと思いきや、隣に腰掛け、空を見上げ始めたのだ。

頼むから今日はどっか行ってくれと心の中で願っていたが、いつまで経ても立ち上がらず、苛立ちながら隣を見れば、唯一見えていた右をこちらに向けた颯太の姿があった。



「何落ち込んでんのか知らないけどさ、真央は真央らしくやっていけば良いんじゃない? どうせ焦ってもどうにもならないんだしさ」



そう言って颯太は去って行った。

あの男にとっては何でもない一言だったと思うのだが、私にとっては嬉しい言葉だった。

あの人を見下していたような男に周りからたとえ評価されなくとも、自分は自分らしくあれば良いんだと言われたような気がしたからだ。

それから何故か私は颯太という人間が気になり始め、涼音の傍にいながら颯太という人となりを知りたくなった。

実は私が知らなっただけで、颯太は女子からモテていた。

身長はまぁある方だし、頭は良い。

運動神経も良かったし、顔もほとんど見てないが崩れてはいないと思う。

何を考えているのか分からないながらも、人のことを良く見て行動しているのだと分かると、涼音が言っていた優しさという部分に気が付くことができた。

そんな風に颯太を観察し始めてしばらく経った頃に、涼音から颯太と付き合いたいから手伝って欲しいと言われた。

すぐにもちろん、と答えたかったのに、思うように声が出ず、首を縦に小さく振ることしかできなかった。

今思えば、そのときには私も颯太のことが好きだったのだ。



それからは諦める努力と涼音と颯太がうまく行くように動き回る日々が続き、良い雰囲気になってきたのではないかと思っていた時にそれは起きた。



颯太のことが好きだったとあるクラスの女子が涼音を階段から落とそうとしたのだ。

それに気付いた颯太が涼音を庇い、階段から落ちそうになったところを私が全力で引っ張り上げようとしたのだが、颯太の体が思ったよりも重く3人揃って階段から落ちた。

涼音は颯太に庇われ問題はなく、颯太は私を下敷きにしたことにより頭や腰などを特に強打することもなく無事だった。

無事ではなかったのは2人の下敷きにされ、頭を強打した私である。

打ちどころが悪く、そのまま死んだのが前の世界の最期。



あのとき、私はあのまま私が居なくなればきっと2人はうまく行き、私は胸の痛みから解放されると思ってしまった。



生きていたら2人がたとえ付き合ったとしても、心から喜べる自信がなかったのだ。

大切な幼馴染の幸せを願えないような私は、消えてしまえば良いのに、と。

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