アナザー・ワールド
ひと段落ついた雨野虹はビルの一室で休憩をとっていた。幸いここに落ち着くまでに固形の保存食や水を見つけることが出来たので飢えて死ぬことはなさそうだ。この世界の時間軸がずれていないのならば賞味期限も余裕がある。
「これからおれはなにをさせられるんだ?」
椅子に腰かけ、疲れた体を休めつつ黒光りする自称妖精に問いかける。
「先ずはここの支配人を倒すことね。ここでは支配人以外人として生きられない。」
確かにこの世界を少し見た限り元居た世界と酷似しているが人という人はいない。
この世界はとあるきっかけで終末が起こって支配人たち以外いなくなったという状況らしい。
「この場所に合成獣がたどり着くのも時間の問題なんだよね。合成獣には索敵が得意な個体もいるし。」
まるで他人事のような物言いである。
「もう終わりだ。当然だがおれには戦う体力も気力もない。この世界におれ呼よんだのは間違いじゃないのか?」
「確かにあなたにはとりえはなかったのかもしれないけれどそれは元の世界での話。あなたの適正は術師に全振りされてるの。魔力も私とリンクすれば使えるし。」
雨野虹は黒妖精から魔力とそれを扱うための情報が流れてくるのを感じる。
妖精由来の魔力を使うとそれに応じて自身の寿命が犠牲になる仕組みになっている。しかし、使える魔法には寿命の消耗が少ないものもある。
ドアの向こうから獣の唸り声が聞こえる。
雨野虹は覚悟を決め、扉を開ける。