ダークネス・フェアリー
雨野虹は元居た駅前で意識を取り戻した。ただし、真夜中ではなく昼間である。あたりを見渡す限り人気がないこと以外不自然がところがない。都会の駅であるため昼間に人がいないということはありえない。雨野虹はここはいわゆる並行世界の類ではないかと思う。幼少の頃はSFを読んで空想科学などに思いをはせたことを回想する。
雨野虹は早速例の声の主を探すことにする。
「ここはどうなってるんだ。出てきてくれ。」
大声をだすことは得意ではないがこのような状況なので必死に声を出しながらあたりを散策する。
するとビルの間から黒い獣のような人、いや、人のような獣が次々に姿を現す。その数は次第に増えていった。
「久々の人間だ。今夜は宴だ。」
例の声の主とは違って低い獣の叫び声のようであった。
雨野虹は危険を察知し、逃げ出す。この世界で食料になるために呼ばれたつもりはなかった。足は速いほうではなかったが元の世界でこのあたりの地理には詳しかったので細い道に逃げ込むことで活路を見出そうとした。
怪物達は強者の余裕なのかそこまで猛スピードで追いかけてくるということはしなかった。しかし、思いのほか統率は取れているようで逃げ道を徐々に塞いでいく。
雨野虹は駅から3km程の路地で疲労困憊になりその場にうずくまる。元々体力もそこまでない自分がここまで抵抗したことを褒めたいくらいであった。視界がぼやける中、黒い小さな光があることに気付く。
「やっほー。」
例の声である。
「あなたが逃げ出すから追いつくのが遅れちゃった。」
空気が読めないのか呑気な様子である。
「お前は誰だ。あの怪物達は何者だ。」
「私は黒妖精とでも名乗ろうかしら。あいつらは合成獣とでも呼びましょうか。」
こうしている間に合成獣達が追い付いてきた。
「もう余興は終わりだ。」
「そうねもう余興は終わりだね。」
合成獣の言葉に黒妖精は答えた後、一言ささやくと、大勢いた合成獣はすべて石化した。
「これが石化ノ音色あなたが術師なんだから覚えといてね。」
雨野虹には訳が分からなかった。
「私は単体では何もできないけど術師であるあなたを媒介にして魔法が使えるの。あなたの寿命を削ってね。」
「おい。」
「さっきので大体20年」
雨野虹にとってこれほど理不尽に思うことはなかった。