秋
秋はどうしてだろう。少し寂しくなる。そう零すと君はいつも側にいてくれた。その時間は確かに幸せだった。
季節は移ろい、半そでで十分だった季節が終わって、上着を羽織らなければ少し寒いくらいになった。
廊下を歩くと、じんわりと足から寒さが上がってくる。
ミツは今に行こうと歩いていた。するといきなり後ろから肩を叩かれた。
「うわっ!」
「びっくりした!」
ミツは驚き、大きな声を上げて飛び跳ねた。トビはその声に驚き、声を上げた。
「なんだ、トビか。びっくりした」
肩を叩いてきた人物の正体に気付き、ミツは胸を撫で下ろした。
「びっくりしたのはこっちだ。声掛けたのに気付かないから肩叩いたら大声上げんだもん」
トビは少し顔を膨らませ、怒っているんだという意思表示をする。
そんなトビにミツは軽くごめんで済ませた。
「でも、どうしたの? こんな朝から」
「おばさんが栗と芋があるから食べにおいでって。今に用意してあるから一緒に食べようぜ」
さっきまでのふくれっ面から一変して、トビはニカッと笑った。
「わあ、秋らしくていいね。そう言えばお母さんたちはどこに行ったんだろう?」
自分たち以外に人の気配のない家を不審に思いミツはトビに尋ねるが、トビは答えなかった。
「そういえば今までも、誰もいなかった気がする。あれ? いつからだっけ? ねえ、トビ……」
家に他に誰もいないのを疑問に思い、トビに尋ねるが、トビはだんまりだ。
「トビ……?」
「ミツ、そんなことより食べよう? 腹減らねぇ?」
正直ミツは空腹は感じなかったが、これ以上尋ねるとトビまでがいなくなりそうで怖くなり、尋ねられなかった。
居間に行くと蒸された栗とサツマイモがテーブルのところに並んでいた。
蒸し立てのようでホカホカと湯気が立っている。
「いただきま~す」
手を合わせてからかぶりつくと、ほくほくとしたそれらはじんわりとした甘みが広がった。
「秋の味覚だねぇ」
「美味しいな」
二人はしばらく秋の味を堪能した。
「なあ、ミツ。今日も行く?」
「今日はどこに行こうか? たくさんの思い出の場所があるもんね」
ミツはそう言うと自分の言った『思い出』という言葉に引っかかったようで一瞬動きを止めた。
「どうした、ミツ?」
「……どうして、思い出の場所だけなんだろう。行ったことのない場所だってきっと楽しいはずなのに、切り取りたい景色があるはずなのに、どうして?」
「ミツ、今日、なんかおかしいぞ? 今日はゆっくり休むか?」
「おかしくなんかないよ! だって、だって……!」
ミツは何かおかしいと思いながら、それをうまく言葉にできなかった。
「なあ、ミツ。思い出の場所じゃ、嫌?」
トビのその質問にミツは「嫌じゃないけど……」と俯きながら返した。
「嫌じゃないんだったら行こう! 早くしないと秋が過ぎちまう。そしたら、冬が来るぞ」
ミツはトビの言った『冬』が怖くなり、泣きそうな顔をした。
それに気付いたトビはミツの顔を包み込むように手を添えた。
「ミツ、まだ冬じゃない。だから行こう?」
ミツは頷き、トビと自分の家を後にした。
外は彩り豊かな世界だった。
空は夏の空よりずっと高かった。
赤や黄色の紅葉と銀杏がひらひらと踊り、薄紅のコスモスが風に揺れている。甘い香りのする金木犀は地面に黄色の絨毯を作っていた。
収穫が遅れているのか、金色の稲穂が頭を深く垂れ、その周りをアキアカネが飛んでいる。
「綺麗だね」
ビー玉のように澄んだ瞳で見つめるミツはそう零した。
「いっぱい思い出を切り取ろうな」
そう言って、トビはカッターナイフで景色をたくさん切り取った。
ミツはぼくもと言って、トビからカッターナイフを借り、切り取った。
たくさんの景色は色とりどりの落ち葉にも負けないくらい色鮮やかになった。