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第6話 波動VS覇道VS空腹

私はシエナさんのお悩み相談を引き受けることにしました。

ただ、一つ気になっていたことがあります。


「どうして私に相談をしたんですか?」


大事な悩み事など、転入して日の浅い私よりも、カイネさんなどに相談している方が自然です。

なぜ彼女はわざわざ新参者の私を相談相手に選んだのでしょうか。天使だからかな?


シエナさんはスカートをぎゅっと握ったり離したりしながら言いました。


「だって、キーラさん、こういうこと言っちゃうのは、そのなんだか失礼かもしれないけれど、いままで庶民として暮らしてきたでしょ?だからそのぉ…」


そして顔を赤くして一呼吸おき、


「こ、こういう男女な話、くわ、詳しいかなって!」


「特に詳しくないです」


ラブコメの波動だったかぁ……。


思わず包容力のある美少女の外面が剥がれかけてしまいました。


「え!?でもお父様とお母様の身分を越えた愛に感動の再会は」


……感動?

三次元振動するホーンボーン男爵と泣く子も黙るお掃除大好きな母が、私の脳内を横切っていきます。


「やつら再会してないです。それに母が感動という感性を持ち合わせているかも怪しいです」


「!?」


ロマンもへったくれもない返答に、シエナさんは驚愕の表情。

皆さんとお話ししてて気がついたんですけど、この学園の学生は良くも悪くも箱入りなせいか、男女のアレコレに夢を見がちな気質がありますね。


「ですが、手紙がどのように送られてきたのか、この謎の解明は間違いなく我が覇道の助けとなるでしょう。シエナさん、任せて下さい」


この学園の女子寮にいかにして、手紙を送ったのか。この技術を我が物とすれば、私は新たな力を手にいれることができるかもしれません。

そう思うとつい熱が入ってしまい、覇道という言葉を口にしてしまいました。もうこれは私の完璧な外面をえいやっ、と投げ捨ててしまいましょう。


「は、覇道?」


「シエナさんは覇道にご興味をお持ちですか?そうですかそうですかでしたらこの私と語り合いましょうぜひともあなたと話したいと思っていたんです」


いやぁ、嬉しいですね。語り合える同志がいるというものは。


「え?あ、いや」


「さっさと問題解決しましょう。そして覇道を語りましょう」


「は、はい」


「さて、何らかの手段で手紙を運んでいるのですね。魔法でしょうか?」


魔法。


新しい時代になって人類が手にいれた、新たな法則。


仮想領域(アルケー )を構成する幻素が世界を満たしたことで、魔法が生まれて幾星霜、世の中は変化していきました。これによって新たに生まれた技術と消えていった技術は数知れず。しかし、新時代の法則たる魔法もまた、従来の技術や法則と同じように万能ではありません。


簡単なものなら誰でも使うことができますし、一説によると人は常時何かの魔法を使っている痕跡があるそう。とはいえ、複雑な事象の発生、例えば遠くの場所まで正確に物を運ぶような動作は困難を極めます。


魔法を正しく理解し、より本質的に開発や使用をするためには、数学や物理学など基礎を勉強しなくてはなりません。そして自分がどの程度魔法を使えるか、スペックを把握する。そうすることによって初めてこの力を行使することができるのです。


だから、私たちは無茶なスケジュールの下、学園で机にへばりついて勉強する必要があるんですね。


研究が進んでいなかったその昔、身の丈に合わない魔法を無理やり使おうとして、頭がパーになってしまう人が結構いたそうです。怖いですね。なぜ頭がパーになってしまうのか、いくつかの仮説は立てられていますが、完全には証明されていないのもなかなか恐ろしいところではあります。人が誰しも潜在的に爆弾を抱えてしまっているという問題を、解決できていないことにつながっているので。


話がそれてしまいましたが、ありえなさそうなことはとりあえず魔法のせいにしとけ、みたいな風潮もあるので、原因の一つとして挙げさせていただいた次第です。


「うーん、それは考えたんだけど。仮に風魔法で手紙を運んだとして、誰にも気がつかれずにそんな高度な魔法を使うなんて、学生レベルでできるかな」


幻素には『(タレス)』、『(ヘラクレイトス)』、『(アナクメイシス)』、『(クセノパネス)』の四つがあり、これらを操作することで魔法は発生します。風魔法というのは風の幻素を操作した魔法の総称で、軽さを与えるなど、物の運動に寄与することができます。


「では今度の休日に実験してみましょう。外部の人間が近づけるギリギリのところから、寮に向けて手紙を風魔法で送ってみませんか」


シエナさんも色々と考えてみているようですが、それだけでは結論は出せません。せっかく人手が二人分あるわけなので、手紙郵送の謎についてはいくつかの仮説を検証してみたほうがよいでしょう。


そして、未来の権力者たるこの私、もちろんシエナさんの相談の本質を見失ってはいけませんよ?


「確認のため聞きますが、一番シエナさんが知りたいことは、なぜ手紙が来なくなってしまったか、ですよね?」


「うん」


「男子部がちょうどテスト期間で手紙を書く余裕がないとか、そういうわけではないはずですし……。男子部の噂なり、人の動きなりを調べる必要もありそう。そちらの方につてはありますか?」


テスト期間など、行事のスケジュールは女子部・男子部で違いはないはずです。そうすると、男子部内のトラブルが原因で、手紙の主が文通不可能になってしまった可能性も考えられます。


「私は弟がいるけど、ここにはまだ入学してないし……。でも、クラスの何人かは在籍中の御兄弟がいらしたと思う」


残念ですが、つい最近まで一般市民だった身。まだまだ私には上流階級に通用するコネというものが圧倒的に足りません。切実に早く欲しい。


「ではそう言った方々から情報を集めましょうか。……とりあえず、そろそろ夕食の時間ですし、今日はお開きにして続きは明日の休日でもいいですか?」


まあいろいろ議論しましたけど、時間も時間です。私たちは育ち盛りですからね。しっかり食べて、しっかり休まなければ。


決して空腹に耐えかねたわけではないことをここに記します。


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