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第5話 覇道式対話術

このところのシエナさんは少し様子が変でした。何かぼーっと思い悩んで授業が終わったことに気がつかず、そのまま次のコマに遅れかけたかと思えば、夕食のときはやたらとそわそわして、食事の時間がおわるやいなや、急いで食堂棟から出ていったり。

まだ付き合いは浅いですが、カイネさんの戸惑った反応を見る限り、いつもとは違う調子であることはわかりました。

そのこともあって、私は彼女の呼び出しに応じたのです。




寮の裏へ向かった私を待っていたのは、目を潤ませたシエナさんでした。

覇道式対話術により、とりあえず彼女を落ち着かせて話を聞くことにします。


「それで、花壇のお手紙とはなんのことなんですか?」


「あのね……、私、ここの花壇でお花の世話をしてるのは、もう知ってると思うんだけど。実は育ててる花の近くに、いつからか手紙が置かれてるようになってたの」


園芸が趣味のシエナさんは、今私たちのいる寮の裏の花壇で花を植えて面倒を見ています。ですので、平日の自由時間や休日はここでよく土をいじっているのはよく見かけていました。


「どんな手紙だったのですか?」


私がそう聞くと、シエナさんは少し顔赤くして、


「一番初めは、ここの花はとてもきれいに育てられているんですね、とか、自分も園芸に興味があるのでどんな風に世話をしているのかぜひお話ししてみたいです、とか。それで、もし返事がいただけるのなら、ここの花壇に手紙を置いていただけると嬉しいです、とも書いてあってね。最初は誉めてもらえて嬉しかったのもあって、冗談半分で返事を書いて、私も置いておいてみたの」


ともじもじにながらも答えました。


「はあ、なるほど」


なんだかこれは、ある種の波動を感じますねぇ……。

シエナさんはさらに続けます。


「次に見に来たら、私の手紙がなくなってて、代わりにお返事が来てて。それから、少しずつお手紙のやり取りをするようになって……。気がついたら、そのお手紙がすごく待ち遠しくなってた」


そう言い終わると、どこか遠くを見るような眼差しをしました。


「その手紙がこなくなってしまったと?」


雨の日どうしてたんだろうと突っ込みをいれたいですが、さすがの私もそのような雰囲気ぶち壊しムーブはしません。自然な相づちを私は打てるのです。


「うん、今まではこんなに間が空いたことはなかったのに。最近全然便りがないの。それどころか、私が置いた手紙もそのままで……」


シエナさんは悲しい気持ちがぶり返したのか、顔を伏せてしまいます。口ぶりから察するに、文通相手とは面識がないようですが、女子部の寮に手紙を遅れる人間は限られています。


「ここに手紙をおける人間って、この場所に入れる、つまり女子寮の誰かではないんですか?」


ここは上流階級の子女が多く在籍している学園です。加えて、女子部の寮なのですから、おいそれと部外者が入ることはできません。

しかし、


「それがその……、男の子みたい」


シエナさんはそう言いました。


「やり取りしてるうちに、自分のこととか、身近な出来事とかも書くようになってね。お手紙の人は、自分は学園の男子部の人間だって書いてあったよ」


「そんな。ここは女子部の寮ですよ?手紙をおけるってことは無断侵入してるってことになってしまういますよね」


手紙の主を仮に男子学生としてしまえば、彼(仮)は女子寮にバレずに侵入できるとんでもないヤツです。

私の言葉に、シエナさんもうなずきます。彼女もこのことが予想できないほど、バカではありません。むしろこの学園に通えていることから、相当優秀です。


「うん……、だから、今まで誰にも言えなくて」


彼女は私をまっすぐ見て、


「私、どうして手紙が来なくなっちゃったのか、理由を知りたい。だけど私だけじゃ、どうすればいいか全然わからなかったから。キーラさんに助けてほしいなって思って呼び出したの。……ごめんね、編入してきてまだ日が浅いのに、こんな無理な相談しちゃって。誰かに話せただけでも少し気が楽になったよ。ありがとう。一方的に相談しちゃったけど、やっぱり気にしないで!」


たぶん手紙の主は女子寮の敷地に侵入したことがばれて捕まったから返事がないんじゃないな。


わりと最初からそう思ってました。


まあ、ただこれだとなんの面白味もありません。それに、今までどうやって手紙を届けたり、回収してたりをしていたのかも気になります。

そこで私はシエナさんの手を両手で包み込み、


「手紙の謎、お助けしますよ」


かわいい系守ってあげたい美少女から、包容力のある美少女へとシフトチェンジしました。


「え!でも」


シエナさんはおろおろしていますが、問題ありません。なぜなら私は力、知、権力を手にいれる女。この程度の問題解決ができなくてどうする。


「気にしないでください。クラスメートじゃないですか」


「……キーラさん、ありがとう!」


私の言葉に、申し訳なさそうにしつつも少し嬉しそうに返しました。


彼女の悩み、私が覇道を実践することで解決してやろうじゃありませんか。



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