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第3話 参謀渦巻かない歓迎会

学園の寮ももちろん女子部と男子部で別れており、不純異性交遊など言語道断不倶戴天という強い意志を感じるその造りは、ちょっとやそっとでは壊れなさそうな堅牢さを醸し出しています。建物は居住棟と食堂棟の二種類があります。


「この寮ってすごく古いんだけど、頑丈に造りすぎたせいで取り壊して新しい建物造れないんだって」


「でもなんだか雰囲気があっていいわよね」


寮に行くまでの道すがら、シエナ・ブックス嬢とカイネ・リプトン嬢が色々とおしゃべりをしてくれます。


「ホーンボーンさんの部屋ってどこ?近くだったら嬉しいな」


「入居予定だった部屋は何か不備があったみたいで、まだ行ったこともないし、どこかも聞いていないんです」


私の言葉を聞いた二人は一瞬凍り付いた表情をしました。


「まさか、この前やらかしてたあの部屋…?」


「やらかし?何かあったんですか?」


「へ、あ、いや、たぶん私の気のせいだから!気にしないで!」


シエナ嬢がぶんぶんと頭をふって否定し、


「そうそう!まさか編入生にあんなところに住まわせるわけないよ!」


とカイネ嬢がうんうんとうなずきます。


二人の口ぶりに対して気にはなりますが、たとえどんな部屋であろうとも、いつでもどこでもたくましく生きていける自信しかない私は一向にかまいません。


「寮、楽しみですね」




「ホーンボーンさん、マイマイ寮へようこそ!」


歓迎会は寮の食堂棟で行われました。五学年各二学級の全女子学生がここで一緒に食事をすることになっています。しかし今回は特別に夕食の後、食堂を開放してくれたのこと。ちなみにマイマイ寮というのは女子寮の名前です。男子寮はデンデン寮というらしいですが、どちらも奇妙な名前ですね。


歓迎会ということで、同学級の20人くらいの学生が自己紹介を次々にしてくれます。


「シエナ・ブーア・ブックスです。さっきもお話したけどこれからよろしくね。ええと、自己紹介だから、趣味とか言えばいいのかな。園芸が好きで、寮の裏の花壇で色々育ててます」


「カイネ・ジーニック・リプトンよ。えへへ、もう覚えてくれた?こう見えて読書が趣味なんだ。カイネって気軽に呼んでね!」


あの子は伯爵家、あの子は豪商の、またあの子は……。

などと脳内権力リスト作成に励んでいると、あのはかなげ美少女の番が来ました。


「私はイオリ・ジョー・モノル。よろしくね」


成り上がり一般市民たるこの私もさすがもこの家は聞いたことがあります。

モノル侯爵家。財を成すなどの功績で新興貴族が誕生していく中、数少ない昔から存続する世襲貴族。

つまりはめちゃくちゃ権力を握っているということ。

学園で権力掌握するには速やかに彼女に勝つことが勝利条件ですね。


「ええ、よろしくお願いします」


「ふふふ」


微笑み返されたのでこちらも微笑みます。


「ふふふ」


「「ふふふふふ」」


「あれ、なんかちょっと寒い?」


シエナさんがキョロキョロとしています。癒しです。しかし、なんだかいけ好かないやつですね、イオリ・モノル嬢は。そうして自己紹介も終わり、わちゃわちゃ近くにいる人たちとで歓談タイムとなりました。


「そういえば、キーラさん。今朝、中庭大穴事件に巻き込まれたって聞いたんだけど大丈夫だった?」


「えええ!そうだったの!?転入早々大変だったね。怪我してない?」


シエナさんの言葉に、カイネさんが心配してくれます。


「はい、特には。……あの、大穴をあけた方って?」


二人は顔を見合わせて、


「うーんと、それは…、例のあの方の仕業だね」


「例のあの方?」


「一応、公爵令嬢で次席っていうすごい方なんだけど」


「トラブルメーカーなんだよね……」


それはわかります。ですが、何故名前で呼ばれないのでしょうか。


「でも隣の学級だし、そうそう関わることもないから大丈夫だよ!」


なるほど。この学級にはイオリ・モノル公爵令嬢。もう一方の学級には件の公爵令嬢。

彼女たちに挑んでいかなければ。


こうして夜更けていきました。歓迎会もお開きとなり、ぞろぞろと食堂棟から居住棟へ移動していきます。居住棟と食堂棟の移動には一旦外に出る必要がありましたが、明かりがあたりを照らしているため、夜でも出歩くことは可能です。

シエナさんは花壇を少し見てくる、と裏の花壇を覗きに行き、またすぐ戻ってきました。


「今、そろそろ咲きそうな花があってつい気になっちゃうんだ」


「シエナったら最近ずっとそわそわしてるもんね~」


「え?そ、そうかな?」


カイネさんにシエナさんは上ずった声で返しています。


さて、寮の部屋ですが、夕食前に私は教師から部屋の準備が終わったとカギを渡されていました。カギには階と部屋番号が刻まれていて、建物の規模から考えると該当階の端の方ではないかと推測できます。


「キーラさん、カギ貰ったんだよね?お部屋は……え゛」


「ここは……」


クラスメートたちが私の部屋の場所を知ってざわつきました。どうやらいわくつきのようですが、一体なんなのでしょう。


「キーラさんキーラさんっ!」


カイネさんがこそこそ話します。


「お部屋、例のあの方とモノルさんの間の……」


そこに割り込むようにして、あのイオリ・モノルが、


「あら、私の隣の部屋じゃない?寮でもよろしくね、お隣さん」


と相変わらずの微笑みを浮かべて話しかけてきたのでした。


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