第2話 編入生だよキーラちゃん
「キーラ・デオ・ホーンボーンと申します。よろしくお願いいたします」
そう言って私は教室で挨拶をしました。皆、興味深そうに見ているのがわかります。
ぐるっと教室内を見渡した後、教師の指示に従って私は席に着きました。
学園は男女で敷地自体分かれているため、教室内は女子しかいません。どの子も育ちがよさそうな雰囲気を持っていて、まさに令嬢ロードを突っ走るためには最適な環境ですね。
教室内には1人、ひと際存在感を放つ者がいました。見た目ははかなげな美少女と言った様子ですが、私の眼はごまかせません。彼女は相当の実力者のようです。
少し武者震いをしてしまった私に近くの席の子が心配そうにこちらを見ていました。
キーラちゃんうっかり。
外見は守ってあげたいかわいい系である私は、内面を知られると1/2が茫然とし、15/32が詐欺だと言い放ち、1/32が喜びます。選ばれし3.125%がいる。
そこで今回は内面を知られることなく権力掌握を目指します。
「ホーンボーンさん、何か困ったことがあったら言ってね」
初の授業が終わった後の休み時間、そう言ってくれたのはうっすらそばかすがチャームポイントのシエナ・ブックス子爵令嬢。
親しみのある笑顔で素敵です。
今はまだ本音で喋れないですが、いつか覇道を語り合いたいものです。
「そうそう、慣れないこととかいつでも頼って!」
彼女はカイネ・リプトン伯爵令嬢。活発そうな性格の子です。
己の力で乗り越えてこそなので頼ることはありません。たぶん何かあるときは対等での対話でしょう。
「はい、ありがとうございます」
彼女たちと私が話しているのを見たクラスメートたちが、私の席へ集まってきます。
「ホーンボーンさんってどのあたりの領地に住んでいらしたの?」
「生まれた時から都で暮らしていました」
「お父様とお母様は身分違いの恋をして、身ごもった彼女は男爵の元を去って、そして今!ようやく感動の再会をしたんでしょ!?なんだか物語みたい!すごいわ!」
「え」
「ここ、女の子しかいないから、そういうのついつい気になっちゃうんだよね。でも本当に『少女漫画』みたい!」
『少女漫画』。遺跡から発掘したその書籍媒体は絵と今ではもう読むことのできない文字によって構成されており、最近通常言語に翻訳されて話題になりました。私は常に最前線を進むので、流行チェックに抜かりはありません。
どうやら、男爵や母、それに私の話は噂話としてもう上流階級界隈に拡がっているようでしたが、なにやら勘違いが起きている気がします。
「ほんとねー、ついつい気が緩んじゃう。まあ、先生たちの目があるところではちゃんとしてないと怒られちゃうから、そこだけは気を付けて」
「その、ホーンボーンさんって実はお互いに思いあってる相手がいて、実は貴族だったってわかって男爵家に引き取られるときに、『いつか、君に釣り合う男になって迎えに行くよ』なんて言われて……きゃー!!!」
「い、いえ。そういうことは全く」
「妄想だけは豊かになっちゃうのよね~」
「この前は皆で架空の彼氏をつくっておしゃべりするのはとても楽しゅうございました」
「またやりたいね」
彼女たちは私を囲んでワイワイキャッキャ。
この私が大勢の女の子たちの勢いにグイグイと少し押されるとは……。しかし、雰囲気は掴みました。私は学習する女。そして力、知、権力を手に入れる者です。
てっきり、「ふん!この成り上がりの平民風情が!べちん!」となるような、参謀渦巻く修羅の世界を想定していたのですが、随分と和やかな感じですね。
私は会話に相槌を打ちつつも、ある人を視界にとらえ続けていました。
教室で最初にマークした、見た目ははかなげ素顔は多分覇者。
編入初日たるこの私が彼女とコンタクトをとるには、どうするべきでしょうか。
そんな時こんな提案が耳に入りました。
「せっかくですから、午後の授業が終わったら、寮で歓迎会しましょう!」
お伝えし忘れていましたがこの学園は全寮制。当然私も寮に入ることになります。本来ならば、先に寮に入居してから編入ということになっていたのですが、部屋に不備があったそうで、いきなり編入初日に初登校となりました。
「いいですわ!」
「さっそく、先生たちに頼みましょう」
「たくさんお話ししましょうね」
ちょうど休み時間が終わり、私を囲んでいたクラスメートたちは各自席に戻って行きます。
……ふむ、歓迎会。